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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-249

 よく、ツーストライクまで簡単に追い込んだ後は、“遊び球”と称して、一球の間を置く時がある。しかし、熟練した捕手に言わせると、それは無駄に等しいことらしい。勝負は一気に決めることが肝要であり、それを意図しない球は放る意味がないと……。
 桜子が三球目に大和に求めたアウトコースは、まさにその“無駄”に当てはまる。亮に、戸惑いを払わせる余裕を与えたことが、ここは何よりも痛い。勝負の仕掛けを、明らかに見誤ったミス・リードである。
(次こそは……)
 大和は内角を望む。しかし、である。
(また、外か)
 桜子のミットは、アウトコースから動かない。
大和はわずかに逡巡を見せたが、やはりそれに頷いて、投球モーションを始めた。
「!」
 アウトコースに投じられた直球は、充分に球威が乗っている。しかし、三球も続けて同じコースにストレートが続いたとあれば、いくら打者の目から遠く打ちにくいコースであるといっても、充分にアジャストはできる。亮の実力であれば、それは尚更のことである。

 キィン!

「!?」
 二球目では詰まらせたはずの直球が、今度はいとも簡単に弾き返された。亮は、わずかな時間の中でタイミングのズレを修正させたのだ。
「ファウル!」
 その強烈なベクトルから放たれたボールは、弾丸のようなスピードで空気を切り裂く。ただし、右方向に大きく逸れて飛んでいった打球は初めから、誰の目にもファウルとわかった。
(すげ…)
一塁の守備につく雄太は、ファウルとはいえその鋭い当たりに唖然としている。 岡崎は無表情を装っていたが、いつまでも打球の行方から視線が離れないほど、意識を奪われている。
 実力者の二人が呑まれてしまえば、他のメンバーにもそれは伝播してしまう。 どことなく追い込まれた雰囲気が、双葉大の野手陣に降りていた。その重さを呼んだのは、亮の放った打球であった。
(………)
 そのことは、グラウンドの中心部分に立つ大和が誰よりも承知している。背中を後押ししてくれる心強い支えが、今は失われていることも…。投手として避けられない“孤独”を、彼は味わっていた。
(ふんばりどころですよ)
 これが公式戦であれば、エレナは迷いもなくタイムを取るようにバッテリーに指示を出すのだが、ここは独力で乗り切ってもらうために、あえて沈黙を続けた。
(ど、どうしよう……)
 一方で桜子は、完全に動転していた。亮の気迫と鋭い打球に怯え驚かされ、頭の中が真っ白になってしまったのだ。自分でもわからないぐらいに、気持ちの整理がつかない。
 スイングとタイミングを見れば、打者と投手の間にある優位性は、どちらに風向きがあるかがわかる。完全に相手を詰まらせた二球目までは、大和にその風が吹いていたが、鋭い当たりのファウルを打たれたことによって、風は明らかに亮の方へ向きを変えつつあった。
 本来なら、ここで緩急を織り交ぜるところだ。しかし、大和にはストレートしかない。コースを投げ分けることで、相手に的を絞らせないことが何より肝要になってくるのだが、桜子はどうしても内角にミットを構えることができなかった。
 結界を張られたかのように、ミットが動かない。結局、彼女が選んだコースは、またしても外角であった。
(そりゃ、やばいって)
(どうしたんだ、蓬莱)
 雄太も、岡崎も、桜子らしからぬ弱気なリードに気がついている。しかし、インプレー中であるために、それを指摘することもできない。
 桜子の意思を翻すことができるとすれば、それは、マウンドにいる大和が首を横に振るしかないのだが…。
「………」
 間を長く取らずにテンポ良く投げ込んでいた大和だったが、このときは珍しく長考した。彼もやはり、桜子のリードには何らかの疑念を抱いているのだろう。 それが雰囲気で読める雄太も岡崎は、彼が首を横に振ることを期待していた。


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