『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-228
「ああ。これから、すぐに…な」
盛り上がった気持ちを、抑えることはできない。短い言葉の中に、確かな意志が込められている。
「うん……いいよ……」
だから晶も、従順に頷いた。
本音を言えば、きちんとした禊を済ませたい気もした。夕方に軽くシャワーを浴びていたとはいえ、汗ばんだ肌から昇る香気は自分でもわかる。
「いい匂いがするな」
「暑いもん。すぐに、汗かいちゃう……」
もっとも、それによって自分の興奮が相手に伝わるのならば、好都合ではあるのかもしれない。亮の鼻先が、頬とうなじに摺り寄せられ、そのくすぐったさに身を捩らせながら、そんなことを考えてみる晶であった。
そのまま二人は、寝室にたどり着いた。設えられているベッドは当然、並んで横になっても、余裕がある大きさである。
「ん……」
夏仕様のクッションは、少し固いものになっている。それを慮ったのか、晶を横にするときの亮は、随分と丁寧な手つきであった。興奮状態に入りつつあっても、抑えるポイントを忘れる彼ではない。
「亮……」
晶の腕が、何かを求めるようにして天に伸びてきた。頬を包み込んだ彼女の掌は、しっとりと潤っている。火照った頬には、とても心地良い。
「愛してる…」
「俺もだよ」
「だめ……ちゃんと、言ってくれなきゃ……」
「愛してるよ……」
「ふふ……ん……んぅ……」
戯れながら言葉で結んだ、想いの形。それを確かめるように、深く唇を重ね合わせる二人であった。
「ん……んふっ……ちゅ……んんっ……」
何度も何度も唇を噛み合い、吐息を混ぜ合わせ、二人は絆を確かめ合う。言葉は何より大事だが、行為も等しく大切だ。
愛しさと慈しみを込めて、甘い気分に溶け合いながら、口づけを繰り返す。呼吸をするために唇が離れても、間に懸かる銀糸が二人を離れさせなかった。
「はぁ……」
濡れた唇から切なげに漏れる晶の吐息は、蒸気のように熱い。性の発火が、身体中で燻りを生んでいるのだろう。
「なんだか、すごく熱い……」
「エアコン、つけようか?」
「ばかぁ…。そんなんじゃ、ないわよ……」
焦点のずれた物言いに、晶は拗ねる。
「はは。…わかってるよ」
「あっ……んっ……んんっ……」
それを宥めるように亮は、唇に軽いキスを送った後で、晶の頬を舌で辿りながら、首筋に吸い付いた。
「もう……いじわる……んっ……んんっ……」
亮のペースに乗せられている自分をわかっていながら、どうすることもできない。舌が這うたびに肌が敏感になり、“性火”がその身を焦がしていく。亮のリードを受けながら、導かれるように昂ぶっていく自分を、晶は自覚していた。
“黄金バッテリー”と呼ばれていた学生時代から、そのリードに身を任せてきたのだ。試合の時も、セックスの時も…。
「はぁ……はぁ……あ……んぅ……はふぅ……」
自分でもわかるほど、息が熱い。全身がじっとりと汗ばんで、シャツが肌に張り付いている。
「熱い……亮……からだ、熱いの……」
性火による発熱に、晶は身を捩る。熱病に罹っているわけではないが、平熱は軽く越えているだろう。
熱いというなら、それを冷ます事が第一だ。
「脱ごう」
「え……」
「裸になれば、少しは楽になれる」
全身の肌が熱を発しているのだから、全てを脱がせて放熱させなければならない。要するに、晶を裸に剥く必要があるということだ。
「あたしだけじゃ、いや……。あなたも……」
「わかったよ。身体を、起こしてくれるかい?」
「うん……」
のっそりと鈍い動きで、晶が半身を起こした。