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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-201

「それじゃあ、始めるぜ」
 主審を務めるのは、栄輔である。最近、審判の格好が様になってきたのは気のせいではあるまい。
(へへっ…)
 もちろん、栄輔自身も望んでエレナの手伝いをしているのだが、今日は特別な思い入れがあった。
(晶が投げて、木戸が受けるか…)
 城南第二大学時代、“隼リーグ”で成し遂げた偉業の三連覇。その主要メンバーのひとりでもあった栄輔は、チームの核を担っていた黄金バッテリーの活躍を、最も間近で見続けてきた。
 同僚であっても、強い憧れを抱かせる魅力が二人にはある。
(そういや、ここは特等席だな)
 いつも以上に、躍動している自分の胸の内がこそばゆい。そんな、はしゃいだ自分を周りに知られたくない彼は、なんとか顔に出さないようにしているが、明らかに嬉しそうな雰囲気であった。
(………)
 これまでの“練習試合”とは違う、グラウンドの内外を覆う雰囲気…。それを感じ取っているのは、先攻・双葉大学のトップバッター岡崎だ。
(違う、な…)
 対峙する相手投手の晶とは、春に一度対戦したことがある。しかし、そのときとはまるで違う雰囲気を、マウンド上の晶は背負っていた。
 あの時は、あくまで“少年野球チームの監督”という立場にあったからだろう。マウンドの上にいる晶の姿に対して、“対戦相手”というよりは“指導者”という印象の方が強く、とりたてて強烈なプレッシャーを感じることはなかった。
 だが今日は全く違う。完全にひとりの選手としてマウンドに立っている彼女は、“ヒットの一本でも打たせてなるものか”という挑戦的なオーラを放っていた。
「よろしく、お願いします」
 打席に立つ前に、捕手の亮に軽く頭を下げる。
「こちらこそ」
 その“応え”とばかりに彼は軽く頷いて、マスクの下から温和な笑顔を見せた。
(………)
 そんな何気ない仕草にさえ、存在感がある。岡崎の優れた野球センスは早くも、亮に対する警戒感に、その嗅覚を研ぎ澄ませていた。
(違う…。今までの相手とは、違う)
 張り詰めたものを背中に感じた時点で、岡崎は“呑まれた”といってもいいだろう。
(いかん、な)
 何となく気持ちの落ち着きを失っていると感じながら、どうすることもできない自分がいることに彼は気付く。
「プレイボール!」
 栄輔が試合開始を告げると同時に、マウンド上の晶は大きく振りかぶった。

 スパンッ!

「!」
 投じられた初球は、糸を引くような球筋を残して亮のミットに吸い込まれた。
「ストライク!」
 ど真ん中に、である。アグレッシブなトップバッターの岡崎ならば、このうえない絶好球のはずだった。
(………)
 それにも関わらず、彼は見逃した。手が出なかった、とここでは言うべきだろうか。
「ナイスボール!」
 岡崎の様子を意に介することもなく、亮はボールを投げ返す。それを受け取った晶は、ほとんど間を取らずに第二球目を投じていた。
「ストライク!!」
 インコースの高めに、それは決まった。岡崎がわずかに仰け反ったが、それは間違いなくストライクゾーンを貫いている。
 左投手が左打者に圧倒的な強さを持っているのは、角度に理由がある。投じられた球筋を背中から見ることになる打者は、それゆえに相手投手の、球の出所の見極めが難しい。
 さらに、柔らかくしなりのある投球モーションから振られた腕はまるで鞭のようで、指先からボールが放たれる瞬間も見にくい。それらの相乗により、タイミングが測りづらいのである。
(くっ……)
 大きく振りかぶり、高く脚を挙げて、しなやかな一連の投球モーションから生み出される、鮮やかなストレートの軌跡…。


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