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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-20

「まぁひとつ、よろしく」
「………」
 松永は、自分が相手に快く思われていないことを十分に承知しているのか、余計なやり取りを避けるように、自軍の集まりへと戻っていく。
「因縁って、ヤツよね」
 京子がため息交じりにつぶやいた。桜子が、もの問いたげに彼女を見やる。
 それに気づいた京子は、少し考えこむような様子を見せたが、すぐに言葉をつなげていった。
「あいつら、ちょっとタチが悪いのよ」
「?」
「試合運びがね、かなりダーティー。それに、賭け野球の元締めみたいなこともやってたから、きっと今日も、裏で何かをやっているんじゃないかしら」
 なにしろかつて、そういう試合に“巻き込まれた”経験をもつ。
 2年前の、草野球大会のことである。“草球会”が出来る前の大会だったそれは、その“シャークス”の代表である松永が中心になって企画されたものだったのだが、参加費を水増しして徴収されたばかりか、審判のジャッジが明らかにシャークス有利に働いて、結成間もないドラフターズは完全にカモにされてしまったのである。そのときは6チームによる変則トーナメントとなったが、初戦でシャークスと対戦したドラフターズは、ものの見事に惨敗した。もともとが強豪のシャークスなのに、そこに審判という強大な味方を得たのだから、京子ひとりが頼みのドラフターズは太刀打ちができなかった。
 そして後から知った話だが、この大会には隠れオプションがついており、一勝ごとにいくらかの金銭が授与されたらしい。それを知るにおよび、野球を汚すような大会に参加してしまった自分の識見の甘さに、龍介は自身を責めた。
 その後、シャークスが関与する大会には一切の不参加を決め込み、結果的にほとんど試合ができなくなった龍介率いるドラフターズだったが、やはり同じ思いを抱く者はいて、その中のひとりであった草野球チーム“ドリーマーズ”の代表・鈴木寛に、
『それぞれのチームの代表が、二月に一度ぐらい寄り合っていろいろな話しあいができるような、そんな集まりを創ろうじゃないか』
 と、話を持ちかけられた。
 鈴木寛という男は、情が厚く、面倒見が良く、器の広い好漢で、そんな鈴木に男惚れした龍介はその話に同調し、やはり意志を同じくした代表者たちを交えて“草球会”を発足した。
 その草球会が主催して開かれる草野球大会は管理・運営がしっかりしていて、それを慕って、草球会に参加するチームは増え続けた。結果、これまで近隣の草野球チームを牛耳ってきた感のあるシャークスは孤立していったのである。
 そんなふうに“干された”形になったシャークスを、鈴木は草球会に受け入れた。その点からでも、彼の度量の深さは証明できるだろう。
 しかし、シャークスの松永はその一員になってからも、以前ほどの露骨さは見せなくなったが、未だに賭け野球を続けている。そのことに対し龍介を始め、眉をひそめる者も多かったが、単発の試合であることと、対戦相手もそれを承知でやっているということから強く指摘することも出来ずに、黙認せざるを得ない形になっていた。松永ほどではないにせよ、草球会に所属している中にも、賭け野球に興じている者は存在している。
 この点は、それぞれの良心に期待をするしかないのだ。
(まったく……)
 なにやら他のチームの連中と顔をつきあわせ、ひそひそ話をしている松永を見やりながら、彼らの顔つきでその内容を簡単に把握できた京子は、深くため息をつきながら思う。
(つまらないことなんだよ。それは、とても……)
 実は京子も、そんな賭け野球の“勝負の世界”に魅せられ、嬉々として参加していた過去を持つだけに、余計、彼らの愚かしさが目についた。
(野球の面白さは、そんなことなんかじゃないんだって、気づいて欲しいよ……)
 自分がその世界から脚を洗うことができたのは、大学時代の同回生に、野球に対して何処までも純真で真剣な男がいたからだ。
“管弦楽幸次郎”という、今は自分の旦那になったその男のおかげで、京子は今でも野球の喜びを強く感じていられる。それは、とても幸せなことだといつでも思うから、その幸せをくれた旦那は京子にとって、かけがえのない存在であった。
「まぁ、物事には表と裏があるっていうこと」
「はぁ……」
 酸いも甘いも味わってきた京子の人生経験に、桜子が及ぶはずもない。


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