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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-182

「今年はさ」
 そんな感傷を余所に、満の話は続く。
「監督が面白いぜ。“東海の若鷹”も、久々に甲子園に出てきたし、もっと面白いのは“老将”の復帰だな」
 “東海の若鷹”とは、静岡県の代表として甲子園に進出してきた“陣幕学園”の監督である二ノ宮昭彦の事である。事故によって右目の視力を失うハンデにも負けず、選手としても、監督としても甲子園の舞台を踏み、選手の力量と試合の流れを鋭い観察力で見抜いて名勝負を何度も戦ってきた、年若いとはいえ高校球界でも名高い人物である。
 そして、“老将”とは、齢七十を越えながら前線に戻ってきた日内十蔵のことだ。新潟県代表・雪峰高校の監督として、彼は甲子園に戻ってきた。当然だが今大会の最年長監督である彼は、最後の一花を故郷のために咲かせたいという想いの熱さがある。監督インタビューでも闊達としており、まだまだ“若さ”を感じさせた。
 両者が大学時代は師弟関係にあったことも交えて、マスコミは監督を話題に盛り上がっている。軟式球界にも身を置いていた二人であるから、所属していた“隼リーグ”にも世間の注目が高まっていた。
「この二人、うまくいけば三回戦であたるんだ。新進気鋭の“若鷹”と、老いて盛んな“老将”との対決になったら、こりゃあ燃えるぜ!!」
 満の話は止まらない。彼は、義兄の風祭に負けないほど根っからの"野球好き"である。特に高校野球を好んでおり、それに関する雑誌と記録の蒐集も趣味にしていた。

『あれっ……まさか、コイツ……?』

 だから、アルバイトとして義兄に紹介された大和のことを、一目で“甲子園の恋人”と見切ったのだ。大和の事情を知っている風祭は、そのことをあえて口にしなかったのだが、義弟の観察眼には敵わなかったのである。
 満は、ノリは軽いが思慮のある人物だ。大和のことを、世間から消えて久しい“甲子園の恋人”だとわかったときこそは、興味津々といった表情を浮かべていたが、根掘り葉掘りその後のことなどを訊くことはしなかった。
 その後、義兄に改めて、肘を故障してからの大和について、色々な事情を満は訊かされた。“彼のことに気付いたのなら”と、敢えて義兄は全てを語って聞かせてくれたのである。
(挫折を乗り越えようとしている)
 話を聞くにおよび、年下なのに随分と大人びた雰囲気が彼にはあるはずだと思った。
 自分は両親が健在であり、特に大きな悩みを抱えることもなくこれまで生活をしてきた。だから、大和が抱えてきた挫折と苦悩に対して、自分が直接できることは何もないかもしれない。しかし、こうやって同じ職場で働く者同士になったのだから、できるかぎりは彼の力になってやりたいと考えていた。
「はいよ、日替わりおまちどうさん!」
「おっ。おばちゃん、ありがと! …さ、食おうぜ大和」
「はい。それじゃあ、いただきます」
 そのひとつが、“一緒に飯を喰うこと”である。簡単なことだが、これは重要なことだ。
 昨今の家庭の乱れは、家族が食卓を共にしなくなったことも大きな原因と考えられている。同じ釜の飯を食することは、その絆をより一層深めることになるからだ。食事時の団欒が失われてしまえば、家族は何処にその拠りどころを求めればいいというのだろうか。
 …話が逸れた。
「ところでよ、大和は“コレ”いるの?」
 不意に満は、にやけながら小指を立てた。自他ともに認める“助平君”は、この童顔も愛らしい彼に、果たして彼女がいるのかどうか確かめたくなったのだ。それぐらいの詮索は、許されるだろう。
「どうなのよ」
「……います」
 隠し立てをしても仕方がないし、照れるからと言って嘘をいえば桜子に対して不実である。
「おお、さすがに年頃の男の子!」
「そ、そういう藤島さんは、どうなんですか?」
 訊かれたのだから、訊いてもかまわないだろう。大和は少しだけ頬を紅くしつつ、満に反撃を施した。
「ふっふっふ。もちろん、いるぜ」
 自信ありげに腕を組み、不敵な笑みを浮かべる満。なにやら、もったいぶっている。


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