『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-16
「………」
ボックスティッシュから数枚の紙を取り出し、ヌルヌルになってしまった股間を拭う。その滑りを取り払い、すっきりしたところで、桜子は下着に脚を通すと、それをそのまま引き揚げて身につけた。
「どうしよう、これ……」
脱いだばかりの、空色の下着。桜子の急所が当たる部分は、広範囲に渡って濃い色に変化している。つまり、それだけ派手に濡らしてしまったということだ。下手をすると、“失禁”にさえ間違われそうなほどに…。
結論から言えば、洗濯物を放り込んでおく籠に入れておくしかないのだが、それを姉が見つけて、
『あら、桜子ったら。また、ひとりでエッチなことをしていたのね』
と、呟かれることは間違いなく、それがとても恥ずかしかった。
なにしろかつて、覚えたばかりの自慰に夢中になり、激しく股間を擦っていた最中、誤って部屋に入って来た姉にその現場を見られたことがある。しかもそのとき、注意を受けるどころか、“あらあら、あなたもそんな歳になったのね”と言って微笑んだ姉に、
『桜子、それは、あまり強く擦り過ぎてもダメなのよ』
と、諭され、その後、“気持ちよくなれる正しい自慰の方法”として姉の知識と体験を教えられた。そして、“正しい自慰”はストレス解消になるばかりか、身体の性感を高め、きたるべき初体験の時の痛みをやわらげてくれるとも言い、“どんどんやりなさい”と勧めるものだから、桜子は恥ずかしいと思いながら、姉の言葉を実践するように自慰を重ねてきた。
姉は貞淑だが、性には貪欲だ。毎夜毎夜、龍介との睦言が憚ることなく隣りから聞こえてくるところを考えても、そのことははっきりしている。
それが始まるのが23時から0時の間なので、その時までには寝てしまおうと決めている桜子なのだが、時には意図して起きつづけ、待ちかねたように聞こえてきた睦言を材料に自慰に浸ることもあったのは事実だ。
そういう意味では、桜子もその性は早熟であり、同様に貪欲である。だが露骨に“エッチしたいから、彼が欲しい”と思わない辺り、姉の貞淑さは妹である彼女にも受け継がれている。やはり、お互いを大事に労わりあい、心から信頼し愛することのできる異性に自分の操は捧げたいと考えている桜子である。
「!」
瞬間、草薙大和の顔が浮かんだ。愛くるしい小柄なつくりの顔と、何処までも透き通ったその瞳。少しだけ陰を背負った、“母性”をくすぐるその雰囲気…。
「あ、あっ……」
刹那、じゅ、と股間が疼き、拭ったはずの入り口が瞬く間に蜜湯に溢れた。
「あ〜ん、もう……あたしって、バカだぁ……」
替えたばかりのショーツに染み込んでいく。じくじくと疼く胎内の熱気が、恨めしい。
(べ、別に、草薙君のことを考えたら濡れちゃったわけじゃない……。オ、オナニーなんか、もう、しないもん、今日は…)
大和の陰影がもとになって性を催したのは確かなのに、それを必死に自己否定する桜子。そして、わずかに疼いた二度目の自慰に対する欲求も、無理やりこれを封じ込める。
「………」
その官能を何とか沈めた桜子は、染みになった桃色の下着も脱ぎ払って、今度はナプキンを張りつけた薄藍色のショーツに替えると、隣室から2ラウンド目の喘ぎ声が聞こえてこないうちに、羊の数を数えて無理やり睡魔を引き込んだのであった。
草野球大会の行われる、市立城央小学校運動場。城央市で最も規模の大きい小学校だけに、そのグラウンドもかなり敷地が広く、小学校独自の行事以外でも、市内・各町内の主だった運動大会の会場となる。
この運動場は、野球の試合を行うスペースが二面取れるように、マウンドとプレートが二ヶ所にあった。簡易式なので、市営球場に比べれば土塊の盛り上がりも低く、地面も固くなってしまっているが、小学校と教育委員会に申請さえすれば、日曜に限り無料でいくらでも使用できるのが大きいのでよく利用されていた。
そんなグラウンドの脇に、わらわらと集まってきた色とりどりのユニフォーム姿の集団。