『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-136
「邪魔なら、家に呼んだりしないよ」
「えっ……あっ……」
食器を洗う手が止まった。いつのまにか側に来ていた大和が、背中から手を廻して優しく抱きしめてくれたからだ。
「ひとりは、やっぱり寂しいからさ……」
肩に彼の顎が乗り、互いの頬が触れ合った。桜子のほうが、少し背が高いのだが……どうやら大和は、わずかに爪先立っているらしい。
そうまでして触れあいを求めてきたその頬の柔らかさに、桜子の動悸が強くなった。
「や、大和くん……」
「きみがきてくれて、今日はとても嬉しい」
桜子が失敗するたびにあげる悲鳴も、大和には心楽しい歌声に聞こえた。彼女の失敗の後始末を、どうしたらいいか考えることも、彼には少しも苦痛ではなかった。彼女が作ってくれた油まみれの肉野菜炒めは、自分が作ったそれよりも遥かに美味だった。それは、彼女の懸命な気持ちが篭っていたからである。
「ん……大和、くん……ん……」
小動物のように頬を擦りあっていたかと思うと、唇を寄せて軽いキスを送ってくる。それに応えるように、桜子は大和の唇をついばみ、かすかな触れあいの中で感じる暖かさを、しばらく愉しんだ。
「洗い物が終わったら……僕の部屋にきてくれるかい?」
「ん……うん……」
何度かキスを交わした後で、離れていく間際の大和の囁きが耳元をくすぐった。それを受け止めた桜子の耳朶は、たちまちにして甘い震えを全身に伝え、これからの時間を煽るように、桜子の中にある熱気を高めていく。
(終わった……)
夢現のまま、洗い終わった食器を乾燥機の中に綺麗に並べると、姉からもらって持ってきて身につけていたエプロンを外そうともせずに、桜子は大和の部屋へと向かった。
「大和くん、入るよ……」
「ああ」
ベッドに腰掛けて、文庫本を開いている大和が待っていた。既に彼の視線は愛読している歴史小説家の書を離れ、優しいまなざしで桜子を見つめている。
(あぁ……)
激しい愛しさに、桜子は満腔を支配された。
それは、大和も同様である。
「こっちに、おいで」
「は、はい……」
本を手放し、桜子を誘う大和。魅入られたかのように桜子は部屋の中に入ると、襖をしっかりと閉じ合わせてから大和の隣に腰を下ろした。
きゅ…
「あっ……」
早速とばかりに、肩を抱かれた。
瞬間、桜子の中で渦巻いていた静かな興奮が回転速度を増加させ、中にうねる熱気が至るところにばら撒かれる。その熱気が、桜子の身体中に散っている火種に勢いを与え、燻らせて、たちどころに炎に変えてしまった。
はぁ、はぁ……
苦しい呼吸を静めるように、桜子の豊かな胸が上下する。
「桜子さん……」
頬に、暖かさが生まれた。大和の優しいくちづけだ。
「あ、あん……」
くすぐったさに、かすかに身を竦ませる。それを許さないように、肩を抱き締めている大和の腕に力がこもって、桜子は動きを封じられると、彼の唇によって言葉の出所も塞がれた。
「ん、ちゅ……ん、んふぅ……」
熱い呼吸をわけあって、唇の柔らかさを愉しむ二人。座っていれば、5センチほどの身長差は問題がなくなる。
「あ……」
不意に大和の動きが大きくなったかと思うと、背中から抱き締められる体勢になった。