『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-121
「あっ……」
瞳が、あった。闇の中でも確かに光る彼女の瞳は、かすかに濡れていた。
「僕もね……好きだよ」
「―――っ」
息を飲む、桜子。
「こんな時に、って思うかもしれないけど……蓬莱さんのことが、僕は、好きだよ……」
「………」
じわ、と瞳の輝きが揺れる。それは滴に形を変えて、瞳の端から零れ落ちて、桜子が瞼を閉じるとたちまち溢れ出して頬を伝った。
「好きだ」
ぎゅ……
「!」
もうためらいはない。大和は、彼女の体を抱きしめていた。彼女の心が、自分の心としっかり繋がるように、それを形で表したかったのだ。
「草薙くん、草薙くん……」
しがみつくように、腕を廻してきた桜子。つながった想いが離れないように、持ち前の怪力で大和の胴体を締め上げている。
その苦しみはしかし、それだけ桜子の強い想いが溢れているようで、大和にはむしろ心地よかった。
「蓬莱さん……」
「は、はい……」
胸に顔を埋めていた桜子。そんな彼女を促すように、そっと頬に触れて顔をあげさせる。
再び視線が絡みあった。そして、示し合わせたように、互いの瞼がゆっくりと閉じていく。
「………」
「………」
柔らかい感触が、唇を覆った。
これが夢でないことを祈りながら、大和も桜子も、唇に生まれた暖かさと恋しさに酔いしれていた―――。
恋人たちの夜は甘さに満ちている。
『雄太ぁ……雄太ぁ……』
ヤキモチを妬いて、機嫌を損ねていたのが嘘のように、愛撫を全身に受けて艶やかに謳う品子。
『龍介さん……あなた……あなた……』
隣に桜子と大和がいるにも関わらず、熱せられた情欲を我慢できずに、激しく体を重ねてきた由梨。
『Mm,Darlin’……I LOVE YOU……LOVIN’YOU……』
今宵は穏やかな性愛の中で、愛する人と心を満たしあったエレナ。
彼女たちだけではなく他にも、動物ならば恐れを抱くはずの夜闇の中で、それを払うように数多の睦言が繰り広げられていることだろう。それは恋人たちに許された、甘美なる奏楽なのだ。
想いが深く重なり合っていればいるほどに、美しく優しく甘い音色の響く竪琴を、可愛い天使が二人の元へ運んでくれる。
そして、それは……、
その竪琴は、大和と桜子にも……、
二人が静かに抱き合う空間の中にも、確かに届けられていた。
「あ、ん、ちゅ……ん……」
大和の唇が、浅く深く桜子を刺激している。それが触れてくるところは、唇だけに限らずに、頬であったり、耳であったり、瞼であったり、首筋であったり……。
「あ、ひゃぁ……」
くすぐったそうに身を捩らせる桜子の可愛い仕種に、大和は頭がくらくらした。
「可愛い……」
首筋に、吸いつくようにキスを送る大和。
「ん、んふぅ……」
初めて受ける刺激の数々に、桜子の脳内は甘い色で一杯になっていた。“可愛い”といってくれたことも、桜子にはたまらない愉悦となって、自分の顔一杯にキスを送ってくれる大和への愛情に変化していく。
「もっと、キス……して……んっ」
桜子がねだるまでもなく、唇は暖かいもので満たされた。