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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-118

「旦那に惚れぬいとるからな」
「お姉ちゃんみたいだね」
「さ、桜子!!」
 妹の茶々に、姉が顔を茹らせた。この頃、大和のことでからかわれるばかりだったから、桜子は逆襲したのである。
 団欒の中にあった騒がしさが去ると、急に寂しさが溢れてくる。自分も、今はこの輪を離れ、誰も待つ人のいない部屋に帰らなければならない。
 そんな折である。
「遅くなってもうたなぁ。なんなら草薙君、うちに泊まってくか?」
「えぇ!?」
 まだ終電までは時間がある。さすがにその好意を受けるわけには行かないと、家に帰ることを告げようとした大和であったが…。
「そうだ! それがいいよ、草薙君!」
 なんと桜子が真っ先にそれに賛同していた。
「いや、でも……」
 存外にして大きすぎる好意だ。大和は躊躇うばかりである。
 蓬莱一家では、最も発言力のあると思われる由梨に援け舟を出そうと大和は視線を向けたが、彼女の表情は既に大和の宿泊を認めている様子だった。
「そうですねえ。男の人でも、ちょっと一人歩きは危ないですから。草薙さん、よかったら、お泊りしていってください」
(本気ですか、みなさん!?)
 はっきりと由梨が賛成したことで、蓬莱一家は全員一致で大和の宿泊を承認したことになった。一体この度量の深さと大きさは、果てが何処にあるというのだろう。
「す、すみません」
 たとえ大和が反対しても、1対3ですでに負けている。またしても龍介に背中を押されるようにして、大和は店の中へと戻っていった。この雰囲気から離れたくない想いがあったことを、彼は否めないだろう。
(部屋は、どうするんだろう?)
 大和の心配ごとは尽きない。蓬莱亭の居住区に関して彼は何も知らないが、外観から見たそれによれば、部屋の数は多くないと予測ができる。龍介と由梨は夫婦だから、彼らの空間に立ち入るようなことをしてはいけないだろう。そして、女の子である桜子の個人的な空間にも、入り込むことなどは絶対に許されないだろうから、余っているところを自分に提供するつもりなのだろうか…。なんなら、店の開いた部分で寝させてもらったほうが、面倒がないかもしれないと大和が考えた矢先に、
「桜子の部屋に、お布団出せばいいわよね」
「!!??」
 由梨の衝撃的な発言が生まれ、大和はその思考が停止した。
「お、お姉ちゃん……」
 大和が泊まることに同意していた桜子も、姉の凄まじき一言に真っ白になっている様子である。
「オヤジさんとオカミさんの部屋は、さすがに使えんからな…」
 龍介にとって大恩ある蓬莱姉妹の父・蓬莱又四郎が、鬼籍に入るまで使っていた部屋は、今は蓬莱家の聖域となっている。結果、使える部屋は龍介と由梨が住んでいる夫婦の部屋と、桜子の部屋しか存在していない。家族が増えれば増築を考えている龍介だが、まだ子供を授かっていないのでその話は具体的なところにまで及んではいなかった。
「それで、ええやろ」

 ぶほっ!?

 なんと龍介は、桜子の部屋に大和を泊めることを認めた。
 大和はまるで、脳髄が耳から吹き出てしまったかのような衝撃に襲われ、停止した思考を元に戻す術を完全に失ってしまった。
 蓬莱亭に戻ってからの大和の記憶は、ここで一度途切れたといっていいだろう。
「………」
 風呂をいただき、龍介の予備の寝巻きを拝借してそれを身につけた大和がようやく自我を取り戻した時、既に彼は桜子の部屋にしかれていた布団の上に座っていた。幸い、替えの下着はバッグの中に詰め込んであったので(練習の時には、大和は常に予備の下着を携帯している。汗を吸い込んだそれを着続けると、体調管理に影響が出るからである)、それを使っている。


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