Cross Destiny
〜神竜の牙〜B-17
「私は私のやるべき事をやる。グレイ、アゼイルあなた達はジェラルド軍を少しでも多く倒すのよ」
「少しでも多く?ヒャハ、もしかしたら全滅させちまうかもなあ」
アゼイルと呼ばれる薙刀を背負った小柄な男は軽く言い放つ。
「『油断大敵』だよアゼイル。」
グレイと呼ばれる斧を背負った大男はアゼイルにそう意見する。
「相変わらずうぜえんだなグレイ!」
(これが黄泉羽・・・・戦ってすらいないのに凄い威圧感だ。)
そしてウィンはその三人の強さをひそかに感じ取っていた。
進軍開始一日目
アルス達はアルマー大陸へと渡るために巨大な船に乗る。
千人は乗れるだろうその巨大船が百五十せき、進軍するために海に並ぶ
その光景は今から始まる戦いの激しさを物語っていた。
「・・・アルス」
先日の事を心配してルナがそっとアルスに語り掛けた。
「あの時の俺はどうかしていた。
俺たちには数多くの命がかかっている。
俺たちが迷えばそれが失われるかもしれない。
それを防ぐために俺が出来ることは立ちふさがる敵を斬ることしかないっていうのにな。」
アルスはふっきれた表情で言う。
もちろん迷いが完全に晴れた訳では無かった。
しかし自分の運命を背負う覚悟は出来ていた。 「アルス・・・一人で背負わないで。
私が・・・私達がいるから」
「ああ」
「アルスどうか死なないで下さい」
「死なないさ、約束だ」
アルスは普段見せない笑顔で言った。
しかしルナはそれを見て妙な胸騒ぎがした。
「おーい二人供、飯だぞ」
そう叫ぶヴェイルの声を聞いて二人は甲板から船の中へと入る。
「何話してたんだ?」
ヴェイルは野次馬根性丸出しでニヤケながらアルスに耳打ちをする。
「別に」
冷静にそう言い放つアルス
「もしかしておまえら」
"ドゴッ"
「はぐっ!お、おま、みぞおち」
「くだらないことを言ってる暇があったら明日の準備でもしてろ」
進軍開始二日目
船はアルマー大陸へと到着した。
ジェラルド軍はそこからヒーティア城を目指して進軍を開始した。
灼熱の大陸ヒーティア。
その過酷な環境に軍の殆どの者が疲れを顕にしていた。
「あ、熱い、まだ着かないのか!?」
舌を出しながら息を荒くするヴェイル。最初に愚痴をこぼしたのはヴェイルだった。
その光景はアルスにとって異様だった。
いつも真っ先に愚痴をこぼすフォルツが何も言わずに黙々と歩いていたからだ。
「いったいどうしたんだフォルツ?」
「ん?何がだ?」
「いつものお前らしくない、いつものお前なら散々愚痴たれてるころだろ?」
「そうか?まあ今日は調子がいいんだろ」
「・・・」
フォルツにとってこの大陸の熱さなどどうでもよかった。
ただアシェルの言った言葉だけが頭を離れなかった。己が何者なのかずっと解らなかった。
生まれた場所も家族も。
しかし自分が漆黒の竜人だと知り、自分の父があのアレスターだと知った。
フォルツはその事実が未だ受け入れらずにいた。 そしてそれを受け入れるための時間は無情にも過ぎていく。