投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 78 『STRIKE!!』 80 『STRIKE!!』の最後へ

『STRIKE!!』(全9話)-79

「大丈夫? つらかったら、ちゃんと言ってよね」
「ああ……う……まだ、平気……だと、思う……」
 めったに聞けない彼の弱音。晶は、心配ではあるけれど、そんな弱々しい亮の姿が可愛くて仕方がなかった。
 ……前後の話を整理しよう。
 不幸中の幸いと言おうか、都合の良い話と言うべきか、法泉印大学との対戦が組まれた日程は、大学の創建祭なるものとまともに重なり、降って沸いた連休の真っ只中だった。
 それならと玲子は、宿を借りて2泊3日のスケジュールにしようと皆に提案したのだ。初日は移動日、二日目は試合とクールダウン、そして三日目の朝に帰る。そうすれば、かなり余裕をもった日程になる。
 おおむね、試合のために週末は予定を入れていない面々だったので、それはすぐに通った。問題は経済面だったのだが、宿泊費は自分が負担するという玲子に甘えることにした。移動費と滞在費だけの換算ならば、さして負担にはならない。
「お」
 窓を見ていた赤木が、何かを見つけたようだ。
「おわ、なんじゃ、ありゃ」
 後方の追い越し斜線から爆音を上げて、紅い車が迫ってくる。バスとはいえ、100キロに迫るスピードを出しているにもかかわらず、米粒のようだった紅いそれは、瞬く間に並走するまでに追いつき、一顧だにすることなく抜き去っていった。
「ありゃ、相当だしとるで。……はりきっとるのぉ」
「運転手、結構いい女だったな」
「………」
 そこまで見ていたのか、原田君。
「相乗りもいたがね……こっちは、男だった」
「………」
 淋しそうに言わないでくれ、原田君。
「なあ、赤木。俺たちは、運がいいけど悪いよな」
「なんじゃい、それは」
 原田はくい、と右隣の並びを指で示す。
「わ、ちょっと、亮。ほんとに、大丈夫なの? ……なんか飲む?」
「エイスケ、そのお茶、もらっていいですか? ……間接キスになる? わたしとエイスケの仲じゃないですか。そんなの気になりませんです」
「そういえば、連休にまとめてやろうと思って、資料の整理を残してきたのよね。……んふふ。サービスするから、帰ったら手伝ってね♪」
 赤木は、納得した。
「この状況が、気にならない後ろの連中を、俺は尊敬したい」
 他のメンバーたちは、開幕してから2ヶ月が経過したペナントレースの話題で盛り上がっている。桃色空気全開の、隣の様子は全く気にしていないようだ。
「お前は、気になっとるわけや」
「いや。俺は、お前が気にしていないかどうか、気になっている」
「………」
 無表情のまま腕を組み、しかし、少し顔を紅くしている原田の様子に、赤木はかなり背筋が震えた。



「着!」
 高速バスから路線バスを乗り継いで、泉町にたどり着いた。そこからしばらく歩き、宿町と思しき区画の外れまで行った所に、それはあった。
『民宿・ささらぎ』
 小振りの建物で、かなり古い感じを受ける。その落ち着いた清涼感ある玄関先には、ひとりの老女が待っていた。
「あ、杉乃さん、お待たせしちゃいました?」
 慌てたように玲子が、少し駆け足で老婆に駆け寄る。
「いんや、ちいとも待っとらんでよ」
 老婆は、皺だらけの顔をくしゃりとして、玲子に笑顔を見せた。
「うちのじいさんが、はようこんか、はようこんかとやかましいで、外におったんじゃ」
 どうやら顔なじみらしい二人の会話。それが落ち着いた頃、玲子は直樹に目配せをする。
「あ……こんにちは、お久しぶりです。城二大の軟式野球部11名、これからお世話になります」
「ああ、ええ、ええ。堅苦しいのはわしもじいさんも好かんからのぅ。ささ、疲れたじゃろう? 部屋はきれいにしてあるで、はよお入り」
 老婆・杉乃はくしゃくしゃの笑顔を崩さずに、玄関に皆をいざなう。さすがに11人がそろって入れるほど大きくはないので、めいめいに靴を履き替えて広い場所に集まった。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 78 『STRIKE!!』 80 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前