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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-59

「………」
 亮は再びインコースに構えた。相手の弱点は、とことん突く。これは勝負の鉄則だ。
「!」
 ぶん…。二ノ宮のバットが空を切った。
「ストライク! ツー!!」
 空振りでツーナッシング。これで追い込んだ。
「……いまのは、当たると思ったんだが」
 二ノ宮が苦笑する。測ったタイミングでバットを振ったのだが、期待していた快音と手ごたえは生まれなかった。
「………」
 亮は背筋に冷たいものを感じた。おそらく球筋の予測が外れていたので、バットは空を切ったのだろうが、そのタイミングは完全に合っていた。もしも芯で捕らえられていたら強烈な打球が放たれたことだろう。
「………」
 亮は、アウトコースに構える。ストライクゾーンを外して。さすがに3球同じところに同じ球を続ければ、二ノ宮が脳裏に描く架空の球筋は、現実と一致をみることになろう。
 晶は頷いて、コントロールミスのないようにミットを良く見て速球を繰り出した。彼女も、この打者には宋等気を遣わなければいけないと、感じている。
「っ!」
 ボール球にもかかわらず、二ノ宮が手を出してきた。“先輩らしくない”一瞬浮かんだ亮の言葉は、しかし、快音にかき消された。
「!?」
 それは明らかに芯を捕らえたもの。強烈なライナーが、三遊間に飛ぶ。

 すぱん!

 レフト前の安打を覚悟していた亮だったが、直樹がその打球を横っ飛びで捕球していた。
「キャプテン!!」
 絵にかいたような、ファインプレイ。二ノ宮の踏み込みが深すぎて、打球が心持ち三塁手側に寄り気味だったのも幸いしたのだろうが、それ以上に、直樹の打球に対する反射神経の良さが最大限発揮された場面であった。
「チェンジ!」
 1回の表、櫻陽大の攻撃は三者凡退で終わった。



「相手は、打たせて取るタイプみたいね」
 櫻陽大の主力投手・今井の投球練習を見て玲子はそう思う。サイドハンドから投げられる球は、ストレートと言っても微妙な軌跡を描き、捕手のミットを正確に射抜いていた。
「長見君」
 亮は、1番打者である長見の傍によった。
「木戸、大丈夫だって」
 打ち気に逸らずじっくりと球を見ていけというのだろう。相手の1.2番がそうしたように。
「いや、いけると思ったら打っていってくれ」
「うん? いいのか?」
「フライさえあげなければ。長見君の脚は、相手へのインパクトになるから。カウントを整えられたときのほうが、苦手だろ?」
 長見は、どうしてもカウントで追い込まれると肩に力が入る癖がある。そうすると決まったようにフライを打ち上げて、その脚力を存分に発揮できなくなってしまうのだ。
「ふーん」
 それならと、長見はある決意を持って打席に臨むことにした。
「亮、栄輔になんて?」
 ベンチに戻ると晶が怪訝な顔つきで待っていた。
「ああ、それだけどな」

 きん…

 亮の説明が始まる先に、いい音が耳に響いた。
「GOOD JOB!!」
 ぱちぱちぱちぱち……。エレナの高速回転拍手が、何が起こったかを如実に表してくれている。みれば、一塁ベース上を長見が駆け抜けていた。
「初球を狙わせたんだ」
 晶は“思い切ったことするね”と言葉をつなげる。


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