『STRIKE!!』(全9話)-56
「決定戦の会場は、西の協議会長である吉田くんの助力を受けまして……球児たちならば誰しもが憧れ、夢見た、甲子園球場で行われることになりました」
「!!」
どおぉぉぉぉぉ、と場内が揺れた。
「ほ、ほんとに!」
その揺れの中には、晶の言葉も混じっている。
「甲子園……」
チームメイトたちは、想像もしなかった場所を告げられて、皆が呆然としていた。彼らは高校野球の経験者ではあるが、弱小校の出身でもあり、夢見ることさえ夢に終わった場所だからだ。
「優勝すれば、いけるんか……」
浪花トラッキーズのホーム球場である甲子園。何度も脚を運び、観客席から見ていた場所へ、自分の足で立つ事ができるかもしれない。赤木もまた、静かな興奮に言葉を忘れ、身を熱くしていた。
「もう一度、立てるかもしれないんだ……」
一度はそれを果たしながら、ついに一球も投げることなく立ち去らなければならなかった聖地の頂点。
大きな忘れ物を残してきた場所へ、もう一度…。
「あ」
不意に風が吹いて、晶のキャップを奪い取った。長い髪が風になびいて、いやがおうにも目立ってしまう。壇上の川上会長のスピーチも、一瞬だが止まっていた。
甲子園の記憶をたどっていた晶は、身体に冷たいものが走った。また、あの時のように、女子と言うことで追われてしまうと、思ったからだ。
「あの……」
びくり、と晶は肩を震わせた。声のした方をみると、隣に並んでいたチームの選手の一人が、晶のキャップを彼女に差し出している。
それは、とても小柄でどこか垢抜けない感じの青年だった。……下手すると、高校生に間違われそうなぐらい。
「帽子、あなたのですよね?」
「あ、ご、ごめんなさい」
青年はにっこりと笑い、キャップを晶に手渡した。
「ありがとう」
「お互いに、頑張りましょう」
そう言って、再び会長の立つ壇上を見る彼。晶は、自分が女性であることを何も詮索されなかったことに、ここは以前とは違う場所なのだと言うことに気づいた。
(あなたの懸命さを、邪魔するものは何もないから―――)
「野球の楽しさに、垣根は何もありません。どうか、みなさんが、心から野球を愛し、楽しんでくれることを、いち野球人として心から望んでいます」
玲子の言葉を反芻していたところに、“垣根はない”という川上会長の言葉に感動を覚え、熱く込み上げてくるものを、どうしても晶は抑えることができなかった。
「晶」
「アキラ」
亮とエレナが心配そうに晶の名を呼ぶ。
「ううん。眼にね、ゴミが入っちゃった」
涙を拭ってから、晶は笑って二人に応えた。
ある種の決意を、参加6大学のチーム全体に与えて、隼リーグは開幕した。
開会式直後の試合は、櫻陽大学対城南第二大学。つまり、亮たちの試合が開幕カードになっていた。
コインによる判定で、先攻・後攻を決定した結果、城二大は後攻めとなった。
それぞれのオーダーが、バックスクリーンの掲示板に記されてゆく。市営球場ではあるが、電光であるので、かなり本格的な表示をしてくれた。