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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-55

「ズバリ聞くわ。………いけそう?」
 監督として、キャプテンに聞く。
 問われた直樹は、しかし、何も言わず、天井をにらみ続けている。それが、彼の熟考している姿だと良く知っている玲子は、水を差すようなことは何もしない。
「俺は、いけると思っている」
 静かな言葉に込められる彼の気合。士気を失っていくチームの中にあって、最後まで諦めを口にしなかった直樹。
(直樹くん、いい顔……)
 そんな彼だからこそ、挫けそうになった心を救われ、年下にも関わらず男として惹かれていったのだ。
「どれだけ相手に敵うか、やってみなけりゃわからないけど…。でも、みんな野球に対する気持ちは誰にも負けない。俺だって負けるつもりはないから」
 戦力差を考えれば、おそらく苦戦は必死だろう。しかし、直樹には不思議なことに、理屈もなく高揚する確かな思いがあった。
 チームに対する愛着度は、去年のそれを遥かに凌駕している。それほどに魅力的な要素が、今のチームにはあるからだ。
(木戸と近藤のバッテリー)
 初めて対戦したときから、直樹はそのバッテリーの虜になっていた。そのふたりと同じチームを組んで野球ができる…。
 それが、楽しみでたまらない直樹であった。



 市営の球場に集った、1部リーグに所属する6大学の軟式野球部。普段はその6チームが一同に会することはないのだが、開幕日と言う今日だけはそういうわけにはいかない。隼リーグの開幕には、ささやかながら相応の式典なるものが存在するからだ。
 隼リーグを取り仕切っているのは東日本軟式野球推進協議会。どうしても硬式のボールになじめないまま野球から遠ざかってしまった選手たちに、野球の楽しみを再認識してもらおうと意図して結成された集団だ。プロ・アマ問わず、野球好きが作った集団だけに、その思い入れもまたさまざまな形で、所属しているものたちに恩恵をもたらしている。
「えー、野球を愛する諸君のおかげで、隼リーグも10年目を迎えました」
 会長の川上修平氏の挨拶が続く。かつてプロ球団“東京ガイアンズ”の主力打者として活躍した選手であり、引退後は長らく監督業に従事してきた。プロ球界から完全に身をひいてからは、“純粋に野球を楽しみたい”として、軟式野球の世界に飛び込み、その普及に大きな貢献をしてきた人物でもある。協議会の発足人であり、隼リーグ開設の提唱者でもある彼は、軟式野球の世界において“御大”ないしは“最長老”と呼ばれ、慕われている。
「西日本でも同じ軟式野球の協議会が発足し、ますます野球を愛してくれる人たちの交流が深まってくれるものと、嬉しく思っております」
 これは8年前のことだ。
 川上の球友にして終生のライバルだった“浪花トラッキーズ”の名三塁手・藤村一平氏が音頭を取って“西日本軟式野球推進協議会”を立ち上げた。新リーグの結成を目前に、残念ながら藤村氏は志半ばにして世を去ったが、後を引き継いだ同じ浪花トラッキーズの名遊撃手・吉田守男氏が、隼リーグと対をなす“猛虎リーグ”なるものを開設させた。これが、5年前の話である。
「猛虎リーグも5年目を迎え、野球を通じてお互いに研鑚を高めあえることは、このうえもなく幸せなことだと思っております。………それで、お互い節目となった今年は、ひとつの企画を考えました」
 ざわ…と場内がざわめいた。いつもなら、会長の昔語りは猛虎リーグ開設の説明で終わりを迎えるはずだったからだ。
「隼リーグの優勝大学と、猛虎リーグの優勝大学による、日本一決定戦です」
 おお、と今度は感嘆を含むどよめきに変わる。つまり、プロ野球のような日本シリーズをやろうというのである。
「採算の都合上、1試合しかできませんが」
 どう、と会場の空気がコケたような空気をまとう。こういう落とし方も、川上会長の得意(?)とするところだ。まあ、下手に表裏があるよりは、好感が持てるというもので、一時は落ち込みかけた会場の雰囲気は、笑いも含んで和やかなものになった。


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