『STRIKE!!』(全9話)-52
「まあ、見りゃわかるわな」
その晶が、かいがいしく亮に対して、料理を小皿に取り分けたり、水のお代わりを渡したりしている様を見て、本人に確認を取るまでもなく二人が恋人同士だと察したのだ。
「傍から見ると、みっともねえ気もするけど」
正直な話、あんなに晶が尽くすタイプだとは思わなかった。
「恋する女には、まわりは見えません。はぁ…すてきです。女のシアワセですねぇ…」
胸の前で手を組んで、恍惚となるエレナ。この娘も、相当なロマンチストなのかもしれない。
その後もとりとめのない話をしながら歩いていると、ハイツ大崎の玄関先にある三角のレリーフが見えてきた。それをくぐり、玄関の戸の前に二人は立つ。
「お……9時、越えてたか」
オートロックは既に施錠されていて、押しても引いても反応はなかった。
長見はすぐに慣れた手つきで暗証番号を打ち、扉を開く。内側に引いて開いたので、先にエレナを通した。別に他意はない。そのほうが、場所を譲り合う手間が省けると思ったからだ。
「THANKS」
とても嬉しそうに笑うエレナ。その笑顔に、思わず頬が熱くなる。
(って、おいおい)
こんなのは俺らしくねえ――――。斜に構えているもうひとりの長見が不意に顔を出した。
「じゃあ、まあ、これからよろしくな」
長見は、おそらくエレベーターに乗るだろうエレナに、軽く会釈をしてから廊下の奥にある109号室に向かおうとした。なんとなくつっけんどんな言い方になったのは、照れがさせたこと。そのまま、心もち早足で部屋へと帰ろうとした。
だが……。
「ナガミ」
「ん?」
不意にその腕をつかまれた。何事かと振り向くと、すぐそばに、エレナの顔が。
(え?)
そして、唇に柔らかい感触。ほんの一瞬だが、確かに感じた甘いもの。
――――キス。
そう認識できたのは、唇が離れてからだ。
「な、え、え、え?」
「ありがとうと、おやすみなさいと、これからよろしくのあいさつです」
そして、もう一度、ほんの少し頬を染めたエレナの顔が寄る。再び感じる、表現できない柔らかさが唇に生まれて……。
「………GOOD NIGHT♪」
離れたエレナが、手を振りながらエレベーターに乗る。ドアが閉じるまで、笑顔で手をはためかせて。
そして、そのドアが閉じてからも、長見はその場に立ち尽くしていた。
(…………)
唇に生まれた初めての感触に、心を奪われていたから……。