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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-50

 キン!

「おお!」
 今度は晶の真横を痛烈に抜けて、センターへ。取りあえず空きポジションに入っていた赤木が、しどろもどろにこれを処理した。絵にかいたようなセンター返し。まさに、巧打の極地点。
「はー、あいつ化けよった」
 二塁手の新村にボールを返しながら赤木は、
(……女は偉大やのう)
 ぱちぱちぱち、と、とにかく高速回転を繰り返すエレナを見てそう思うのだった。

「じゃあ、エレナ、行ってみるか?」
「ハイです」
 一通りの打順を消化して、直樹がエレナを呼んだ。ライトから嬉々とした表情でエレナが小走りで打席に向かう。亮からバットとヘルメットを受け取るとすぐに身につけて、打席の中に入った。
(……でかいな)
 威圧感がある、と亮は言いたいのだ。けして、そのダイナマイトボディがぷるぷるしている様を見て言うのではない。プロ野球の助っ人選手たちがよくやるような、小刻みなリズムでタイミングを測るその打撃スタイルに、本場の空気を感じる。
(………よし)
 亮はアウトコースに構えた。そして、ストレートのレベルは1.5。
(?)
 いいの? という晶の視線による問いに、亮は頷く。最初の投球からいきなり本格的なリードではある。晶としては、亮のリードに従うだけだから疑問を抱いても仕方ないのだが。
(あ、やば)
 なんとなく集中を欠いたボールは、真ん中によってしまった。しかし、スピードは充分に乗っている。亮も、直樹も、はじめて見たレベル1のストレートは目で追いきるのが精一杯だった
 そして、今投げたストレートはそれよりも速い1.5。

 キン!

「え!?」
 だから、見送りもしくは空振りを予想していた晶は、金属音の後に高々と舞い上がった軟式ボールがとても遠い世界の出来事に思えた。
 中堅手の長見が懸命にそれを追っている。しかし、俊足の彼でさえ追いつけない、遥か遠い地点にボールは落ちた。測るまでもない。これが、市営の球場ならば間違いなくバックスクリーン直撃の本塁打だ。
「………」
 ナインたちは、畏怖を込めてボールの軌跡を追っていた。ようやく長見が追いついて、拾ってきたボールを投げ返しているにもかかわらず。
 自分たちがいまだ満足に打ち返せない晶の速球を、いとも簡単に弾き返した――――。その事実が、彼らを棒のようにしていた。
「ンー、いい球です」
 打った本人はというと、晶のストレートを無邪気に褒めている。
「このぉ……」
 その後、エレナと晶の対決は熱を帯びた。いきなりどでかい一発を打たれて、晶の頭に血が上ったというのもあるだろう。とにかくストレートをコースに散り分けて、エレナと対峙する。しかしエレナはそれを事も無げに左右に打ち返し、守備陣を右に左に走らせていた。
(………)
 亮もまた、これがフリーバッティングであるというのも忘れたように、いかにしてこの強打者を打ち取るかという考えに終始していた。
(アウトコースは右に叩かれ、インコースも上手くさばかれる。リーチが長いから、多少ボール球にしても振り切れない。……穴が多そうで、その実、隙が全くない!)
 亮は、久しぶりに冷たい汗を感じた。
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
 ほとんど試合のときのように、全身を鞭のようにしならせた晶の、渾身のストレートが唸りをあげて放たれた。



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