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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-49

「長見、彼女はマネージャー志望なのか?」
 直樹の言葉だ。まあ、彼女の言葉を聞けばそう思われても仕方ないだろう。とりあえず長見は苦笑しながら、
「違いますよ。彼女は、野球をやりにきたんです」
 と言っておいた。言い方が事務的になってしまったのは、長見の不器用さがさせることだ。それでもエレナは、満ち足りたような優しい眼差しで、謝意を込めて彼を見つめていた。……長見は、それに気づいていないが。
「柴崎は……」
「ンー、エレナと呼んでください。そっちのほうが、慣れてますので」
「……エレナは、ベースボールの経験は?」
 つい横文字を入れてしまったのは、直樹のちょっとした見栄かもしれない。
「野球は、見るのも、やるのも、教えるのも大スキです、なので、よろしくお願いします」
「おう! ウチは経験なんぞ問わん!! 野球好きなら大歓迎や!!!」
 赤木が吼えた。そして、大袈裟なぐらいに全身を使って拍手を送る。その動きに触発されたようにメンバーたちも一斉に手を打ち鳴らし、エレナを歓待する。かすかに目じりを潤ませて、エレナは三度頭を下げていた。

 練習が始まった。ランニングからストレッチ。そして、キャッチボール、トスバッティングと一連の準備運動をこなし、フリーバッティングへと移る。
 試合の打順ごとに打席に入るので、長見はグラブを持ってセンターに向かおうとした。
「あ、長見、トップいってくれるか?」
 そこを直樹に止められた。怪訝な表情を浮かべたが、すぐにその意図を理解し、ヘルメットとバットを用意して打席に向かう。
「俺を、一番にするの?」
 つまりはそういうことなのだが、確認のため、マスクを念入りに被っている亮に問うて見る。レギュラーの選出は、亮と直樹が権限を持っているからだ。
「長見君、脚が速いから」
「酔狂だねぇ。アウト、フライばっかなのによ」
「栄輔! はやくしなさいよ!」
 既にマウンドで準備を整えていた晶から言葉が飛んだ。またやられたな、という具合に肩をすくめて見せてから、長見は打席に入り直して構えを取った。
(ん……?)
 亮は、長見の構えが変わっていることにすぐ気づいた。いつもなら打ち気に逸り、両肩に力が入って窮屈になってしまう構え方なのだが、今の長見は肩の力が抜けてゆったりとした“間”を感じる。
(………)
 とりあえず、真ん中に構えた。ストレートのレベルは1で。晶は頷くと、亮の要求したとおりのコースに球を放った。

 きん…

「あ」
 これは晶の呟き。
「お」
 これはチームメイトの声。
「GOOD JOB!」
 ぱちぱちぱちぱち……。これは取りあえずライトに入ったエレナの拍手だ。
 長見が放った打球は三遊間の間をバウンドしている。直樹も斉木も、まさかの当りに虚を突かれたか、その打球を追いきることはできず、結局レフトの長谷川が処理をした。
 完全な、ヒットである。
「ナイスバッティング!」
 亮は、真にそう思った。ひ弱に見えるスイングだが、確実に晶の球を芯にとらえ、無理のないフォロースルーが捕らえたボールを綺麗に運んだのだ。それは、これまでの長見には考えられないほどに美しいスイング。
(あの助平、いつのまに………)
 ライトで嬉しそうに拍手を繰り返すエレナを見れば、彼女が何がしか長見に影響を与えたことは明白である。晶としては、長年自分のできなかったことをあっさりとやられたことには悔しいものがある。別に、長見に特殊な感情を抱いていたわけではないのだが。
「晶ー、次くれよ」
「う、わ、わかってるわよ!」
 まさか栄輔に督促を受けるとは……。なんともすっきりしないものを抱えたまま晶は2球目を放った。何も考えなかった投球は、さっきと同じく真ん中に。



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