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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-45

 きん、きん、きん、ぽこ、ぶん、きん…

 その後も長見は、140キロの球を次々と打ち返す。時折思い出したようにポップフライを打ち上げ、空振りをしたりもしたが、その都度、娘の助言が飛びそれを受けて修正をした。後半のほうになると空振りはなくなり、自分でも信じられないくらいに鋭い当りを繰り返すことができた。
「まじかよ……」
 打席にいるのは、間違いなく自分。だから、さきほどから防護ネットに向かって飛んでいく白球を飛ばしたのは、紛れもなく自分のバットなのだ。
「………」
 それなのに、信じられない。今日の練習試合でも、ヒットを打つことはできなかったというのに…。というより、入れ替え戦以降、参加した試合ではことごとく凡打の山を築き、メンバーの中で唯一、打率がなかった。
 だから、自分には打撃の才能は露ほどもないと思い込んでいた。それが、たったひとつのアドバイスで、こうまで変貌するものなのか。

 ぱちぱちぱちぱち…

 青い眼の娘は、笑顔で拍手を繰り返す。長見は、素直にそれが嬉しかった。
「あ、わりいな」
 不意に思い出して、尻ポケットの財布を探る。さっき、コインを投入したのは彼女だ。それを返さなければ。
「Mm……」
 彼女はそれを察したか、手のひらをひらひらさせる。
「SERVICE,SERVICE」
「そうはいかねえ」
 長見としてもこれは譲れない。今更なんだが、男としての矜持もある。
「Mm……」
 青い眼の娘が、自販機を指差した。長見が折れそうも無いと察してのことだろう。
「そう、か。わかった」
 値段が等価でないことが気にはなったが、長見はそれに応じることにした。



「わたし、柴崎です」
「ハイ?」
 互いの名を交換していたときのことである。日本語がやけにうまいことはともかく、見た目に横文字が出てくると考えていた長見は、出鼻を挫かれた。
「OH,わたし、エレナといいます」
 その疑問が顔に出ていたのだろう。娘はすぐに自分のファーストネームを名乗る。
「お父さん、日本の人です。だから、国籍も日本なのです」
「へえ」
 じゃあハーフなのか。しかしそれにしては、日本の血が薄いようにおもえる。父親が日本人だと言ったから、クォーター(4分の1)ではないはずだ。
「養子なのです」
「え……」
「わたしの、本当のちちはは、もういませんので」
 重大なことをさらりと言っている。初対面なのに、いいのだろうか。
「そ、そうか」
「DON’T BE AFRAID.もう5年前ぐらい前のことですから」
 にこにこと、重苦しいはずの話題なのに、エレナの顔は曇りがない。きっと、本人の中でケジメがついていることなのだろう。
「ところで、BOYはどこの中学ですか?」
 和みかけた雰囲気の中、なにか、長見にとってとてつもなく聞き捨てならない単語が聞こえた。


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