『STRIKE!!』(全9話)-44
きん…
「!?」
思いがけない、いい手ごたえ。当てにいっただけのスイングなのに、なかなか鋭いライナーが飛んだ。芯を食ったからだ。
思わず自分の手を見る。
「きますよっ!」
また、声が飛んだ。ぼう、としていた長見は慌ててかまえると、目の前にきていた白いものを先ほどの要領で軽く叩いた。
「お……」
また、鋭い当り。
「ンー、NICEです!」
ぱちぱちぱち…
青い眼の娘は陽気に拍手を送ってくれた。いくら斜に構えたところのある長見とは言え、自分のやったことに対しこうまで喜んでくれるのだから、嬉しくないはずがない。
「あ!」
「ん?」
がご! と、緩衝材を貫く音が響いた。さすがに140キロ。なかなかの衝撃音だ。
「おわっ!」
娘に気を取られていた長見は、当たったわけでもないのに腰を引く。
「あ〜、SORRYです……」
それが自分のせいだと思ったか、青い眼の娘は心底申し訳なさそうに、両手を合わせて頭を下げていた。
130キロの球をまともに打てなかった男が、それ以上の球速である140キロをまがりなりにも弾き返した。それがまぐれあたりではないというのは、手に残るいい感触が、その後も何球か続いたからだ。
「………」
自分のやったことが信じられない。しばし、呆然と自らの打球が飛んだ方向を見る長見。
青い眼の娘がそのブースの中に入ってきたことには、隣に並ばれるまで気がつかなかった。
「あ、わりぃ」
彼女がバッティングをするのだと思い、長見は慌てて出ようとする。
「BOY」
しかし、その肩をやんわりとつかまれて、打席内に戻された。
「な、なんすか?」
「かまえ、かまえ」
「? 構えんの?」
こくり、と笑顔で頷く娘。なぜか素直に、その言葉に従ってしまう。
「ンー。肩にチカラ、入ってます」
両肩に手のひらが乗った。だからというわけではないが、極端なくらいに長見は肩の力を抜いてみる。ほんとに、肩が落ちてしまいそうなぐらいに。
「ん、GOODです」
これで、いいらしい。なんとも力の入っていない、ひ弱なバッティングフォームに思うのだが。
「それじゃー、いってみましょうかっ!」
「え、え、え、え?」
困惑を顔に貼り付けたまま構えを続ける長見を置いて、青い眼の娘はコインを投入するとブースから出ていった。
映像の投手が現れて振りかぶる。おそらく、速度の変更はしていないだろうから…
「!」
140キロの速球が襲いかかる。
きん…
長見は、軽くバットを出した。なにしろ肩に力が入っていないので、バットの握り具合も軽い。思い切り振ると、そのバットが何処かに飛んでしまいそうな気がしたからだ。
しかし意外にも、当たりは鋭いものだった。防護ネットまでは届かないものの、それが実戦の中でなら、充分にヒットになるだろう。
「GOOD JOB!!」
ぱちぱちぱち…と、娘の拍手が飛ぶ。それは非常に心地が良い。
「よっしゃあ!」
意気揚揚と構えを取るが、
「SHOULDER! 肩!」
と、娘に釘を指されてしまった。