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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-4

 ごう!

 と、唸りをあげる速球。それは筋をひくようにして、綺麗に長見のミットを貫いた。
(!?)
 小気味のいい音を残して、ミットに収まる軟式ボール。亮はそれを、信じられないように見つめていた。
「ストライクだぜ」
 晶にボールを返して、再び座る長見が声をかける。
「あ、ああ。そうだな」
 わかっている。しかし、球筋を追うことができなかった。
(こんなに速くて、伸びるのか!?)
 ビデオとは大違いだ。
 二球目を投じる晶。今度は、タイミングを間違えないように計る。
 しかし、
(あっ!)
 ボールは、またも、長見のミットに吸い込まれた。どうしても、伸びについていけない。“伸び”に目が追いつかず、球筋が見えない。
「おいおい、振らなきゃ当たんねーよ」
 長見が呆れたように呟く。亮は、完全に晶のボールに呑まれていた。
「栄輔! レベル2!!」
「げっ!」
 不意に、晶が怒った様に言った。亮は、とにかく構える。このままでは、負ける―――。
 晶の脚があがる。それにしても、高くあがるものだ。その脚が、地面を抉り、その衝撃をしなる様な体の回転運動で腕に伝えていき…、

 びしゅ!

 と、鞭を振ったような音と共に、白い弾丸をはじき出した。
(な……!?)
 ボールが、完全に見えなかった。球筋を追えないとか、そういうレベルではない。打たなければならないはずの、軟式ボールが見えないのだ。
 とにかく、闇雲にバットをふった。もちろん、そんな宛てずっぽうが当たるはずもない。
「うぎゃ!」
 ガコン! と、硬い音がした。長見のマスクに、ボールが直撃したのだ。
 見事なまでの、空振り。
 亮は負けた。なす術もなく…。
「あんたの、負け」
 マウンドから晶が、呆れたようにため息をつく。あまりにも歯ごたえのない勝負に。
「話にならないわ」
 直球をマスク越しに顔面に受け、のびてしまった長見を蹴り起こすと、勝った人のそれとは思えないほど陰鬱な表情で、その場を去っていった。
「期待…させないで」
 という言葉を、亮の耳元に残して。
「………」
 亮は、動けなかった。失ってしまったチャンスの大きさが、絶望となって圧(の)し掛かるようだった。



 近藤晶に完敗したその日。部屋に兄がやってきた。
「いよう、亮!」
 木戸務。それが、亮の兄の名だ。歳は7つ上で、今は飲食店の従業員をしている。
 亮に初めて野球を教えたのは、この務だ。務はそんなに上手い選手ではなかったが、なんというか、教えることに関しては絶妙で、自分の特徴を次々と生かす練習法を編み出して自分を指導してくれた兄を、心底尊敬していた。
 ところがこの務も、今ではすっかり賭け野球にのめりこんでしまっている。現在彼が所属する草野球チームは、そんな試合を何度もしている。一度、その試合に参加したことで、かなり不快な思いをした亮は、それ以来、兄をわずかとはいえ敬遠するようになっていた。


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