投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 4 『STRIKE!!』 6 『STRIKE!!』の最後へ

『STRIKE!!』(全9話)-5

 そんな弟の葛藤を知らず、務はいつものように明るい。
「なあなあ、亮。ちょーとばっかし、お願いがさあ」
「イヤだ」
 どうせ賭け野球の助っ人を頼みに来たのだろう。
「まあ、そう言うなよ。お駄賃は、はずむからさ」
「お金の問題じゃないよ、兄貴」
「かぁ! 相変わらずくそ真面目だねえ!」
 務は、相変わらず頑迷な弟の答に頭を抱えた。
「俺だって、お前が賭け野球をキライなのは知ってるし、無理強いもする気はねえ。だけどよ、それでもこうやってお前に頼みにきたってことは、やむにやまれぬ事情があるってことなんだ」
「なんだよ…」
 困っている兄を見放すほど、亮は冷血漢ではない。今は疎遠にしているとはいえ、兄に対する敬意はまだ残っているのだ。
「まあ、聞けよ。ウチのリーダーがさ、アホなことに、会費を全部、掛け金にしちゃったのよ。おかげで、今度の試合に負けちまうと、俺たちゃ、飲み屋の膨大なツケが払えなくなる」
 はぁ、と亮はため息をついた。
「自業自得だよ」
「おおう、そう言われると辛いぞブラザー!」
「まったく……」
 これが、かつて純真爛漫な瞳で白球を追いかけ、自分の時間を割いてまで野球の練習に付き合ってくれた人の変わり果てた姿だと思うと、亮はとても悲しかった。
「俺もな、自分たちでどうにかできる相手ならお前に無理に頼んだりしねえ。でもな、今回だけはどうにも分が悪い。なにしろ相手ピッチャーは、あの近藤晶なんだからな」
「!?」
「相手も、本気入ってるっつーことよ。掛け金の半分ぐらいは持ってかれるような助っ人を、呼ぶってんだからな」
 それだけ、今回の試合に動く額は大きいということだ。
 だが、亮の思考はそこにはなかった。
(近藤晶が、兄貴たちのチームを相手に投げる?)
 ということはもう一度、彼女と対戦することができる。一度、完膚なきまでに敗北した身だ。個人的に再戦を申し入れても、断られるに違いない。
 だが、試合の中でなら、いやが上にも戦うことが出来る。
「兄貴……」
 助っ人を、引き受けてもいい。亮は、そう続けた。
「ほんとか!?」
「でも、条件がある」
「なんだ? 兄は何でも聞いちゃうぞ、マイ・リトルブラザー!」
「これから、その試合があるまでの間、俺の練習につきあってくれ」
「うぬ?」
「かなり、本気なんだ。兄貴の協力がいる」
「う……わ、わかった」 
 亮の凄みに、務は頷いた。これでは、どちらがお願いに来た身かわからない。
「覚悟してくれよ。相当キツクいくつもりだから」
「い、いいだろう」
 亮は、考えていた。今日の敗北は、自分の不甲斐なさがその原因だと思う。
 チームはリーグ戦で最下位だ。しかも、その状態は最悪といってもいい。気がつけば、その責任を自分のものではないように、どこかに転嫁していた。
 だが、晶と対戦してよくわかった。自分は随分、勝負に対して柔弱になったものだと痛感する。
 高校時代なら、一戦一戦が勝負の世界だった。だから、一瞬を大事にして、そのために猛烈な練習を重ねてきた。
 ところが、リーグ戦ではひとつの勝敗はダイレクトに結果に影響しない。敗北を重ねるうちに、負けることに慣れてしまったのか、身を切るような緊張感を持って野球に臨まなくなっていたことに、亮は気がついた。
 賭け野球とはいえ、近藤晶は勝負の世界にずっといたのだ。これで、勝てるはずがない。
 亮は、決めた。晶と対戦する打席、全てに勝つと。もし、ひとつでも凡退したら、たとえ試合に勝ったとしても、晶のことは諦める。
 晶に完勝する事を、ひとり誓っていた。




『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 4 『STRIKE!!』 6 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前