『STRIKE!!』(全9話)-36
「………」
しかし、練習試合が終わった今日は、“解禁日”といってよい日だから、背後で聞こえるシャワーの音に反応してしまうのは、男として仕方の無いことであろう。
「りょーう」
がちゃ、と扉が開き、晶が顔をのぞかせた。
「な、なに?」
その額に張りつく、濡れた前髪がとっても艶めかしい。
「タオル、忘れちゃった」
「あー、不注意だな」
「だって、早くスッキリしたかったんだもん。ごめん、バックの中にあるから」
取って欲しいというのだろう。
「いいのか?」
バックは個人情報の固まりである。それも、女子にとっては尚更のこと。
「亮だもん」
それが、晶の答えだった。
(信頼してくれるのは、嬉しいけど……)
亮は晶のバックのジッパーに、恐る恐る手を駆ける。本人の許しを得ているのだ。なにを後ろめたいことなどあろうか。
じじじ……と、事の外ゆっくりとジッパーをずらした。
「!?」
そしてその動きが止まった。“生理用品”と記されたパッケージが、真っ先に目に入ってきたからだ。
(こういうのは、奥にしまおうね………)
少しだけあきれ、その下にあるタオルを丁寧に取り出して…、
「ありがと♪」
晶に、手渡した。
「………」
いまだに収まらない胸の動悸は、これからのことに対する期待である。そのあたりを、同じ男として責めることはできそうにない。
「りょーう♪」
「おわ!?」
夕食を終え、何をするでもなく時間を過ごしていた亮の背中に、晶が抱きついてきた。
「うふふ……」
柔らかいものが、ふにふにと押し付けられてくる。それは、晶が触れ合いを求めてくる合図である。
「なによ、そんなに驚いちゃって」
もうちょっと嬉しがってくれてもいいんじゃない? それは晶の声無き、軽い非難。
「テ、テレビに集中してたから」
見れば、ニュース番組のスポーツコーナーを中継しているところであった。
「もう11月よ。野球なんて、シーズン外れもいいとこじゃない」
「ストーブリーグ」
そう言うと亮は再びテレビに集中しだした。その中では、各チームの選手の移籍や、年棒更改の情報など、およそ試合とは関係の無いことが報道されている。見る者にとっては、全くわからないであろう情報を羅列するテレビ画面を、亮はかじりつくように見据えていた。
晶は、小さく息を吐く。
(ほんと、好きよねえ……)
こうなると、どんなに誘惑しても乗ってこないのが亮だ。晶としては中継の終了を待たざるを得ない。
幸いに、それは10分と経たずに終了した。晶にとっては、好都合である。もう、亮に触れたくて触れたくてたまらないのだ。これ以上の猶予は、とても我慢ができない。
亮がため息をついてリモコンを操作しようとする。晶は、その動きをそっと封じ、亮の首に柔らかく両腕を絡み付けた。
「もう、いいでしょ?」
その熱い吐息が亮の耳をくすぐる。
「久しぶりなんだから……ね……お願い……」
「む、むむ……」
晶の動悸が背中にあたり、晶の熱気が耳にかかり、いくら朴念仁の亮でも身体に熱いものがこみ上げてくる。
「晶………」
亮は顔を後ろに向けて、晶の潤む唇を、柔らかく塞いだ。