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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-3

「な、なに?」
「ちょっと、バカにしないでよね。タダで手伝えって言うの?」
 安堵の息をこぼしたのは、隣の長見君。そして、にやにやと亮のほうを見ている。
「野球のことであたしに声をかけてくるんだから、あんたも知ってるはずでしょう?」
「な、なんのこと?」
「ダメダメ、晶。こいつ、なんにもわかってねえよ」
 長見は、やれやれと肩をすくめている。そして、ここが自分の出番とばかりに、晶と亮の間に入ってきた。
「俺たちに助っ人を頼むってんならさ、それなりの“お礼”ってのが必要なんだぜ…アンダステン? 高いよ、俺たちは。なんせ、甲子園経験者だからサ」
「あんたは、出てないでしょうが」
 ごつ、と長見の後頭部を殴る晶。
 …だんだんと掴めてきた。
(賭け野球、か……)
 草野球などで、チームの勝敗を賭けの対象にして興じる賭け野球。そして、この二人は、そんな賭け野球の助っ人を頼んでいると勘違いしているようだ。
 賭け野球の存在は、兄が所属する草野球のチームがそれをやっているので、身近なところで知っている。みな承知の上でやっていることであるし、別段、それで誰に迷惑をかけているわけでもないから、とやかく言うつもりもない。実際の話、兄に頼まれて、そんな賭け野球の試合に参加させられたこともある。
 だが、あんなに楽しくない試合はもう御免だった。当然、分け前は一銭も受け取らなかった。
(そんなことを、しているのか……)
 昔、自分をいろんな意味で虜にした目の前の少女が、そんな世界にいる。心境は複雑だ。ビデオで何度も見た鮮烈な速球が、灰色に滲んでしまう。
「いや、あのさ……」
 めげずに亮は話を続けた。自分たちの置かれている状況を全て。彼女たちが言うような助っ人としてではなく、軟式野球部の正式な一員として、晶をスカウトに来たのだと。
「ハン! お話にならないね。晶、行こうぜ」
 長見が催促する。だが、
「アンタ次第ね」
 晶は、亮の話に乗ってきた。
 おぉぉい、と騒ぐ長見。狼狽を込めて。だが、晶は隣りの長見に一顧だにせず、言う。
「野球は実力の世界。あたしの球を打つことが出来たら、アンタの言うこと訊いてあげる」
「え?」
「実力の世界は、勝負の世界よ!」
 力説する晶。その意図をようやく解した亮は、それを断る理由も道理もない。
「よし」
 こうして、二人の勝負はグラウンドの場に移された。



 城南第二大学は、さしてスポーツに力を入れていない。この無意味に広いグラウンドも、学生たちのレクリエーションとしての利用が大半だ。それでも、いつも空いている。
「勝負は、1打席」
 マウンドに立つ晶。…スカートなのが、少し気になるのだが。
「あたしの頭を越えたら、あんたの勝ち」
「うん」
 バットを持った手に力を込めた。甲子園以来、二度目の対峙だ。
「栄輔、ちゃんと捕りなよ!」
 キャッチャーは、長見だった。彼はいつのまにかマスクとミットを身につけている。…まさか、自前だろうか。
「晶、レベル1・5まで〜」
 マスクの下で、弱気な声で唸る長見。
「情けないわね。わかったから、ミット動かさないでね!」
(レベル1・5?)
 俄かにわいた疑問は、大きく振りかぶった晶の動きで飛んだ。そして、あの時、対戦したように高く上がる脚。ちらりと見える、純白の色も目に入らない。
 しなるような、左腕。ビデオで見たときよりも球の出所がわからない。
(くっ!)
 タイミングが取りづらい―――そう思った時、晶の腕は振られていた。


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