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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-274

 がらがらがら……

「いらっしゃい! ……ゆっくり、していってな二人とも」
 店が忙しくなってきた。赤木と由梨は、名残惜しそうに亮たちのいるテーブルを離れるとそれぞれの仕事に従事していった。
「おいしーい♪」
 晶は大好きな海老シュウマイに舌鼓を打っている。後でしっかりと追加をオーダーしているのだから、その好きさ加減は計り知れない。
「あなたも、もっと食べていいんだよ」
 ひとつを食しただけで、それからは箸を止めていた亮。自分がそのシューマイに惚れていることを知っているから、思慮深く優しいこの旦那様は遠慮をしているのかもしれない。
「はい、あーん」
「よ、よせよ。自分で、食べるから」
「そう? うふふ、ざーんねん」
 悪戯っぽく笑う晶。県の代表として軟式野球のメンバーに選抜され、国体に参加するため沖縄に行っていた愛しい人が、ようやく側に帰ってきたから、はしゃいでいるのだ。
 ……さて、いろいろと散り散りになっている事柄を説明させていただこう。
 時は、順調に流れている。亮と晶が同じ大学で劇的に再会し、共に“隼リーグ”を戦い、前年度最下位だったチームを、日本一にまで導いたあのときから、はやくも8年の月日が経っていた。
 城南第二大学・軟式野球部はその後、“隼リーグ”で前人未到の3連覇を成し遂げた。最も優勝回数の多い櫻陽大学でさえ成しえなかった偉業を、城二大は達成したのである。
 その中心となった、亮と晶のバッテリー。その牙城は、二人が引退・卒業するまで揺るぐことはなかったのであった。
 二人のそれからについて、まずは話そう。
 城南第二大学での学業を修了した亮は、そのまま大学院に進んだ。院で、中学社会科の教員免許を得ると、教員採用試験にも苦心の末になんとか合格し、城南中の教師となった。
 もちろん彼は、本願の通りその中学校で野球部の監督をしている。しかし、“隼リーグ”での活躍によって軟式球界ではかなり有名になっていたから、国体が近づくたびに選抜のメンバーにも常に選ばれるようになっていた。だから、まだまだ“野球選手”としても彼は現役なのである。
 一方の晶はというと……
「そういえば、晶の方はどうだったんだ?」
「ん?」
「少年野球の試合だよ。関東大会」
「んー、2回戦で負けちゃった」
「そっか……」
 だから、晶の口からその話がでなかったのか、と亮は納得した。
 そうだ。晶は今、主婦業の傍ら、少年野球チーム“城南エスペランス”の監督として野球に関わっている。ちなみに彼女がそのチームの監督になったのは昨年のことであり、まだ日が浅い。
 晶は、大学を卒業してから4年ほど広告代理店に勤めていたが、亮と結婚するにあたって寿退社をした。その後は主婦として家庭に入り、教職という激務に精を出す夫・亮のために尽くしてきた。
 それ故に、野球とはすっかり縁のない生活を送ってきた。だからといって、野球熱が冷めてしまったわけではない。時折、“ボールを思い切り投げてみたい”と思うことがあるくらい、彼女の中では何かが燻っていたのは事実だ。
 そんな折、今でも音信のあった高校時代の恩師に“自分の後釜として、このチームの監督をやって欲しい”と請われた。


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