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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-260

 戦いには必ず、勝者と敗者が存在する。城二大とは違う門から出てきた櫻陽大学のメンバーは、さすがに重い空気を引きずっていた。
 それも、そうだろう。最後の最後で試合に敗れ、半分以上は手中にしていた総合優勝を逃したのだから。
「みんな、よくやったよ」
 この試合で最後になる二ノ宮は、しかし、さばさばとしていた。
「終わっちまったな」
 サッパリした顔つきは同僚の鈴木も同様である。
「来年は、おまえら仇を取ってくれよ!」
 最上級生からのハッパを、キャプテンを指名された今井を筆頭に、下級生たちは一様にして気合を乗せた視線でそれを受け止めていた。
「………」
 そんな中、俯いて唇をかみ締めているのは京子だ。
(あたいは……)
 決戦のマウンドを任された試合で、勝利を収めることができなかった。その責を、全身で受け止めている様子でもある。
「醍醐、俯くな」
「!」
 二ノ宮の言葉が、温かいものを纏って心の中に染み入ってくる。
「醍醐も、管弦楽も、1年ながらによくやってくれたよ。本当に、感謝している」
「………」
 その優しさがたまらず、京子の瞳が見る見るうちに潤んでいった。


「悔しいよ、あたい、悔しいよ幸次郎……」
 現地で解散し、帰路に着いた管弦楽と京子。とりあえず、京子の部屋に落ち着いた二人であったが、その中に入るなり管弦楽は、その部屋の持ち主である彼女にしがみつかれていた。
「みんなの期待に、応えきれなかった……勝ちたかったよ、今日は……」
「僕もだ」
 胸にうずまっている京子の髪を、優しく撫でる。敗北の悔しさを感じているのは、彼も同様なのだ。だから管弦楽は、京子を慰めるつもりで髪を撫でているその行為に、実は自分が癒されていることを自覚していた。
「まだまだ、僕も甘い。最後の最後で、皆を勝利に導けなくて……なにが、天才打者だ……」
 ぐ、と声を詰まらせる管弦楽。初めてにも等しい、彼の激昂する様に、京子は泣き濡れているその顔をあげた。
「ちょっと、なんで、アンタも泣くのよ……」
「な、泣いてなど……」
「泣いてるよぉ……」
「う、うぬぅ……」
 管弦楽は、その指摘を認めない代りに、京子の体を抱きしめた。
「幸次郎、幸次郎……」
 悔しさをぶつけるように、その胸にすがる京子。果たして、勝気ないつもの彼女は何処に行ってしまったのか?
 それだけ、チームに対する愛着が生まれていたのだ。孤狼を気取り、斜に構えていた彼女の過去は、今の姿からはもう想像もできない。
「京子……」
「うん……」
「もう、負けはしない……」
「あたいも、負けたくない……」
 濡れた瞳が重なり合った瞬間、二人の間には確固たる決意が芽生えていた。
 余談になるのだが、来季の隼リーグで櫻陽大学はさらに磨きをかけた管弦楽の打撃力と、新球・ナックルボールを習得した京子の活躍で、城南第二大学と優勝をかけた死闘を幾度となく演じることになる。
 後に“二強時代”と謳われることになるこの二つの大学を中心とした隼リーグの盛り上がりは、色々なメディアにも取り上げられるようになり、軟式野球の普及に大きな一役を担ったのであった。





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