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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-261

「……堅実でありながら大胆さを忘れない巧みなインサイドワーク……自分の“間”に球を引き寄せて、芯で捉える打撃技術……」
「壬生さん?」
 手帳になにやら色々と書き込みながら、ぶちぶちと呟いている壬生篤。智子は、怪訝な表情をしている。
「今日は、いい日だぜ」
 一段落ついたように、その手帳を閉じ合わせると、壬生は満足そうな笑顔を浮かべる。
「最近のスカウティングは、金にあかせて歩くのを忘れているからな。いい素材ってのは、やっぱ足で探さなきゃいけねえや」
「お気に入りの選手が、いたんですか?」
「まあ、二人ばかりな」
 智子が興味を引かれたように、もの問いたげな様子を見せている。しかし、壬生は“企業秘密だ”とその手帳を胸ポケットにしまい込んだので、智子は珍しくも軽く不満げな顔つきをした。
「今日は、若造、来なかったみたいだな?」
 智子とその若い編集者…川村昌人は、ほとんどいつも一緒に行動しているから、ついに球場に姿を見せなかった昌人に、少しだけ壬生は不思議に思った。
「あのうふみ先生の所へ、原稿を取りに行っています」
「へえ……いいのかい?」
 “あのうふみ”といえば、あけぼの出版から彗星の如く出現したロマンス小説家である。官能小説ほどは過激ではないが、甘い恋物語と愛のあるセックスを絡めた純愛小説が人気を集めている。
 壬生は、その小説を読んだことはない。だが、後輩の若いスカウトがその“あのうふみ”の熱烈なファンだったので、それが智子と同じ“あけぼの出版”で主に活動をしている作家であることを耳にして、少し気にかけていたのである。
 その素性は謎に包まれているが、噂では相当の美人らしい。純朴な川村昌人が、その色香に垂らし込まれやしないかと、壬生はそんなことを言ったが…。
「心配はないです」
 智子に一蹴されてしまった。
「“あのうふみ”は、もう結婚していますから」
「なんだ、そうなのか? ……って、智子ちゃん、“あのうふみ”を知ってるのか?」
「私の、高校のときの後輩です」
「へぇ!」
 実は智子は、謎のロマンス小説家“あのうふみ”を知っている数少ない人間だ。なにしろ、類稀なる文章家の素質を持っていながら在野に埋もれていた彼女を、その小説の世界に招いたのは他ならぬ智子なのだから。
「まあお互いこれからも、いい仕事をしようや。扱ってるモンとか、居る世界とかはかけ離れているようにも見えるが、俺たちは“感動してもらって、元気になってもらう”ことが何よりの喜びだ」
「そうですね」
 話が落ち着いたところで、壬生が手を挙げた。タクシーを呼ぶためだ。するり、と二人の前に滑り込んできたタクシーの扉が開くと、壬生は智子を先に促した。
「壬生さんは?」
 その好意に甘え、智子は車中の人となる。
「俺は歩いて帰るよ」
 に、と白くて丈夫そうな歯を見せた壬生。智子はそれに笑みを返すと、タクシーの運転手に行き先を告げてから、もう一度壬生に軽く振った。
「………」
 そのタクシーが去った後、壬生はもう一度、胸ポケットから手帳を取り出す。
(木戸亮に、管弦楽幸次郎か……)
 手帳にびっしりと書き込まれている、一般には名前さえ挙がっていない草莽の野球選手たち。新しく加わった二つの名前を見ながら、壬生はまた呟きを始めていた。



「ふぅっ」
 右手に抱えていたバッグを下ろす晶。亮は、扉の鍵を閉めると、その晶のバックを持ち上げて部屋の中へ運んであげた。
「うふふ、ありがとう」
 さりげない優しさは、相変わらずだ。晶は嬉しくなって、禊ぎも済ませていないのに、その背中に抱きついていた。
「晶…」
 背中に乗った柔らかさ。それが、亮の本能を少しずつ刺激してくる。
「あ、汗臭いだろ?」
「そんなことない」
 その腕が身体に絡まって、さらにきつく抱きしめられていた。
「あたし、すっごい興奮してる。ずっと、ドキドキが止まんない…」
「………」
「亮に触れたい。亮に、触れてもらいたい……浅ましいって、思うけど、もう我慢できないよ…」
 背中に押し付けられている、柔らかい部分。晶の興奮を伝えるように、衣服の布地を通して熱いものを迸らせていた。


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