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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-248

「………」
 駆け野球の時は、常に孤独だった。珍しく連打を浴びても、誰も自分の側には寄ってこない。もちろん、そんなことをいちいち期待していたら、助っ人稼業などは務まるはずもないから、京子は意識をしないようにしてきた。
 だが、こうやって励ましを受けるというのは、なんと気分のいいことか。それだけに、自分が過去にやっていたことの卑小さをいやがおうにも思い知らされる。
(野球って、みんなでやるから楽しいモンなんだよね)
 ロージンバックで右手の滑りを拭いながら、京子はようやくその楽しさを真に知ることができたように思えた。



 思いがけない赤木の本塁打で異様な雰囲気となった球場ではあったが、2番の斉木が三球三振で倒れたことでそれはいささか沈静した。
「とほほ……」
 本塁打を打たれた直後だから、その虚を突いてバントを試みようとしたのだが、切れ味の鋭いフォークボールはまだまだ健在で、ファウルと空振りで追い込まれると、遊び球を使われることもなくあっさりと三振に切られていたのである。
「この回で、勝ち越したいところだけど……」
 同点に追いついたとはいえ、引き分けで試合が終わればそれは敗北に等しい。優勝のためには勝利を命題付けられている城二大なのだ。だから玲子は、上位から始まっているこの8回が、ひょっとしたら最後の好機かもしれないと考えている。
「近藤、頼むぞ!」
 それは直樹も同様だ。その思いを短い言葉に乗せて、本来ならば自分が立っていた3番の席を預けた晶に声援を飛ばしていた。
「木戸君の前に、なんとか走者を置いて欲しいところね」
 四球でもなんでも、晶には出塁して欲しい。
「………」
 晶もそのことは、承知していた。丹念に滑り止めをまぶし、そのグリップを握り締めると、ゆっくりと左打席に入り、ひとつ息を吐いてからバットを構えた。
 京子と一瞬、目が合った。途端に、火花が飛び出るようなプレッシャーが浴びせられてくる。その視線から伝わってくる気合は鋭い剣先に似たものだ。勝負の世界にあり続けた者がもつ、独特の空気でもある。
(勝負!)
 だが、晶もそれに負けてはいなかった。彼女とて、ちりちりしたような勝負の世界に長く身を置いていたのだ。そのプレッシャーに怯むようなことは、ない。
 京子の脚が高く上がった。そして、そのままマウンドの土を削ると、鋭く右腕が振られ、白球が弾かれたように放たれた。
「ストライク!」
 インコースに、重いストレートが決まった。コースも厳しいところゆえ、ここは手を出さずに見送った。
(………)
 晶は相手の配球を考える。中盤からフォークの数が圧倒的に増えてきた。追い込んでからのウィニングショットは、九分九厘、そのフォークでくるだろう。
「ボール!」
(………)
 フォークを多投され始めた頃は、その変化の鋭さに惑わされ、ボールの見極めもなかなか侭ならなかったが、打席を重ねた終盤にもなれば慣れはでてくる。二球目の、ボールになるフォークを慎重に見送った晶の集中力は、いよいよ研ぎ澄まされてきた。
 三球目、晶は待っている球が来たならば、勝負を仕掛けることにした。
(よしっ!)
 アウトコースに、カウントを整えるための直球が投じられた瞬間、彼女はバットを水平にしていた。
「!」

 コッ……

 水平にしたバットで、そのボールを一塁線に転がした。セーフティバントを試みたのだ。相手の守備陣が、バントを想定した様子もなく、定位置から見ていくぶん後ろだったことを、晶はよく見ていた。
「小癪な!」
 管弦楽の猛烈なダッシュ。それと入れ替わるように、晶はファーストベースに向かって駆ける。雌豹を思わせる、その俊敏な脚力。
「ふん!」
 管弦楽は素手でボールを捕まえると、ベースカバーに入っていた二塁手・風間に送球した。


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