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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-237

「………」
「バック、バック!」
 二球目のサインをやり取りする前に、晶がプレートを外して走者を牽制した。二塁走者の京子と、一塁走者の津幡をそれぞれ見遣り、もう一度、プレートを踏みしめる。
(ランナーに、指示は出てないみたい)
 少ないリード、そして、機敏な帰塁の動き。それを確認してから晶は、視線で亮に問い掛けた。
(よし、打者で勝負だ)
 亮は、晶にレベル2の速球を内角高めに要求した。走者に気を廻さず、投げることに専念すればいいという意味を込めて。

 ズバン!

「ストライク!!」
 晶もその意に応えんと、クイックモーションからとは思えないほどの流麗な投球フォームから、威力のあるストレートをお見舞いしてやった。
 これでカウントはツーナッシング。遊びを一球も使うことなく相手を追い込んだ。その間、全く動きがなかったことを思えば、どうやら特に指示はでていないと見てもいいだろう。
 三球目は、やはりインコースに。レベル1で、ボールになる球を要求した。
「!」
 晶の足があがった瞬間、ランナーが走った。
(ここでか!?)
 風間がスイングを始める。ヒットエンドランだ。追い込まれている状況でやるような作戦ではない。三振に倒れれば、投手のモーションを盗んだわけでもないから、特に好いスタートというわけでもない走者など、あっさりと刺すことができる。

 ギンッ!

 しかし相手は、櫻陽大学の2番打者。色々なケースでのバッティングに、最も対応できる打者がその席につくのだから、バットに当てることと必ず転がすことを命題付けられている今の状況でも、しっかりと自分の仕事をこなした。
「エレナ!」
 こなしたところではない。かなり、痛烈な打球が三塁横を襲う。そういえば、地味ながら長打力にも優れていることを、亮は思い出した。
「アッ!?」
 反射神経よく差し出したエレナのグラブだったが、その中にボールは収まらなかった。グラブの先で叩き落す格好となったそれは、グラウンドを力なく転がり、それがために何処の塁にも投げられない。
 内野安打だ。これで、満塁。しかも、これから迎える打者はクリーンアップ。
「………」
 さすがに、これまでのようにはいかない。無策と判断した矢先に、絵に描いたようなエンドランを決められた格好となり、亮は舌を噛む。
 す、と立ちすくむ亮の視界に入るように3番の二ノ宮が悠然と打席に入ってきた。
(やはり、三塁は穴になっているな、亮)
 サードを守っているエレナは、打球への反応は見るべきものがあるものの、グラブ裁きに若干の難を残しているように二ノ宮には見えた。もともと外野を守っていた選手だ。縦横無尽に飛んでくる内野の打球に戸惑いを見せるのは当然であろう。
(勝負事に同情は無用)
 このうえない好機だ。ツキも自軍に味方をしている。ここで一打を放てば、揺らめいている勝負の流れは、一気にこちらに傾くだろう。
「晶! 大丈夫だ!! 思いっきり、来い!!!」
 しばらく物思いに沈んでいた様子の亮だったが、思い出したようにマウンドに向かって声を張り上げていた。それを受けて、晶の表情に笑顔が浮かぶ。
(そうこなくてはな)
 戦意をなくしてもらっては、こちらも面白くない。
 晶がセットポジションに入った。二ノ宮はグリップを握り締め、初球を待つ。ベンチからのサインは特にない。この打席でやるべきことを自分で考え、集中して臨めばいい。
「ボール!」
 内角低めの直球で入ってきた。しかし、ややコースがずれていたらしい。
(内角か……ふふふ)
 二ノ宮は、内心ほくそえんだ。絶対的な自分の弱点を真っ先に突いてきたのは勝負の定石といえるかもしれないが、逆にそれは相手の余裕の無さを知らしめる。
 初回の打席では、アウトコースを中心に組み立てたこのバッテリーの配球に翻弄された趣はあったが、オーソドックスな攻めに戻った今の様子を見ると、余裕を失っている二人の様子が手に取るようにわかった。
「!」
 二球目も内角。二ノ宮は、現実にはほとんど見えていない軌跡を、はっきりと心の目に映していた。



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