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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-197

「な、直樹君!!」
 見れば直樹が、不審者を後ろから羽交い絞めに、ナイフを持っている腕を握り締めていた。
「玲子さん! 無事か!」
 あまりに遅い彼女のことを心配したのだろう。
「は、離せ!」
 予想外の時間が経てば、彼がすぐに駆けつけることくらい、この不審者もわかっていたはずだ。それなのに迂闊にも、いろいろと時間をかけすぎている。
「このっ」
「暴れるな! 変態野郎!!」
 直樹は思いがけない強力(ごうりき)を持っている不審男を何とか玲子から遠ざける。すぐに視線で、“早く逃げろ”と林の外を指した。
「で、でも……」
「警察を、呼ぶ……くっ、うわっ!」
 直樹の腕から、不審男が逃れかかった。しかしなんとかもう一度、その身体を捕まえると、直樹は叫ぶように玲子に言う。
「逃げろ、玲子!! 人を呼べ!! 警察を呼んで来るんだ!!」
「う、うん……!」
 それで正気に戻った玲子は、すぐに立ち上がると、林を駆け出した。
「くっ、離さねえかよ!」
「そんなこと言われて、離したヤツがいるもんか!!」
 残された男二人が格闘を続けた。
 直樹は玲子をひとりにしてしまった自分への悔恨と、その玲子を未遂らしいとはいえ、襲った男への憎悪に熱くなっている。それを同時に静めるためには、どうしてもこの男を白日の元に糾弾しなければならない。従って、手を離すつもりなど毛頭なかった。
「おらぁ!」
 しかし、力では敵わなかった。ついに不審男を腕から逃してしまう。
「!」
 すぐに直樹は身体を離して、間を取った。ナイフで刺されることを恐れての判断だ。
「へえ……」
 その思い切りの良さに、不審男が不敵に笑った。なにしろ、そのナイフは、今まで直樹がいたところを薙いでいたのだから。
「………」
「………」
 そのまま対峙する二人。男が逃げようとする素振りを見せれば、直樹はすぐにでも飛びついて、ナイフを持つ腕と体とを極めるつもりでいる。
 その気迫が伝わるのだろう。不敵な様子ながら、不審男も落ち着きはない。なにしろ、逃げてしまった玲子が人ないしは警察を呼んでくるまで、そう時間はないからだ。
「ちっ」
 ついに痺れを切らして、不審男が林を逃れようと身を翻した。剛力と相反するその俊敏な動きに、直樹は機先を制せられ一歩が遅れてしまった。
「う、うわぁ!」
 しかし不意に、男がまるで泥にでも足を滑らせたように体勢を崩した。林の地面は、足を取られるほどの湿り気などなにもないというのに、だ。
(!? あいつの糞かっ!?)
 自分で弄んで面積を広げた玲子の汚物を、まともに踏みつけて滑ってしまったのだ。これはまさに、“迂闊”というより他はない。
「逃がさんぞ!」
 そんな事情など露も知らない直樹は、体勢を崩した男に対して、好機とばかりにすぐさまその背に飛びかかろうとする。
 刹那、光の軌跡が散った。
「!」
 ナイフのきらめきだということは直樹もわかった。一瞬、背筋に寒いものは走ったが、しかし、体の何処にも切り裂かれた感覚がない。
「この野郎!」
 すぐに背に乗っかって、全体重を押し付けて男の動きを封じ込めた。ナイフを持つ手を手首から極めて、男の握力を奪いそれを剥ぎ取った。
 幸いにも直樹は護身術の心得がある。そのスキルが、まさかここで生きようとは、彼も今は考える余裕はない。


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