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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-173

「もう僕に出来ることは何もなさそうだったからな」
 なんとなく、素っ気ない態度の管弦楽。京子としては、理由なく沸いた胸の不快さに、面白くないものを感じた。
「あんた、最後の打席……なに考えてたのよ」
「うむ?」
「あたいに全打席で打ち勝つっていっときながら、なんで勝負を投げたりするような真似したのよ。打つ気なかったでしょう、あんとき」
「………」
 管弦楽の目が遠い。ますます京子は面白くない。
「ちょっと!」
「醍醐京子」
 いい加減頭に来て、言葉で噛み付こうとしたところを遮るようにフルネームを呼ばれた。機先を制され、京子は口からでかかった毒を飲み込んで、管弦楽の言葉を待つことにする。
「どんな形であれ、僕は勝負に負けた」
「な、なにを……」
「さしもの僕でも、一括払いは無理なので、分割払いをお願いしてもいいだろうか?」
 できれば、月いちで10回払いが好もしい、と管弦楽はつなげた。
「………」
 京子は、管弦楽が何を言っているのかわからなかった。だが、自ら提示した勝負の結果に対する条件を思い出したとき、“そういえばそんな話もあった”と、まるでひとごとのようにそれを反芻した。
「! バカにしないでよ!!」

 バンッ!

 と、机を叩きつける。意識がその方へ廻りそうになった自分の邪念をはらうかのように。
 その剣幕の凄さに、遠巻きに二人のやり取りを眺めていた数人の学生が怯えた。
「?」
 管弦楽が怪訝な表情を彼女に投げかけている。彼は別に、なんらかの意図をもっていたわけではない。ただ勝負の結果に順じただけだ。
 そのことは、いつもとあまり変わらない管弦楽の表情でわかりそうなものだが、今の京子はなぜか冷静ではない。
「あたいはねえ、あんたに勝ったなんて思ってない! むしろ、負けたって思ってる!」
「醍醐京子……」
「それにねえ、なんか、すごい胸がむかむかすんのっ! あの、バッカスのリーダーみたいに、いつかあたいもなっちゃうんじゃないかって……そんなふうに考えると、なんかすごく怖いのよッ!」
 何を言っているのだろう。自分でもわからない。これでまるで、聞き分けのない幼子が激情のほとばしるままに大人に噛み付いているのと同じだ。
 相手が管弦楽だと言うのに…いったい自分は何を彼に期待していると言うのだろう。
「管弦楽……」
 だが、言葉は止まらない。
「あんたから見て、あたい、やっぱ……汚れてるかな?」
「断じて、そんなことはない」
 声を落とす京子に対し、彼は即答した。あくまで管弦楽らしく尊大に。
「醍醐京子、君は勝負に対して純粋な精神の持ち主だ。あまりの純粋さは時に、求める道が正しいものでありながら、その手段を誤らせることもある。……今の君のようにね」
 なんだか話が妙な方にすりかわっている。だが管弦楽のある意味での“良さ”は、その中にあって常に自分を失わない強靭な自己である。だからこそ、不測の事態にさえ彼は何でもないように対応してしまうのだ。
 それが、その場に適当かどうかは、若干の問題を残すところだが…今の段階において、管弦楽は正当である。
「君は常に勝負を求めている。神経をすり減らすようなギリギリのところでの勝負を、ね。それが、今までは単に賭け試合の中にあったというだけで、だからといって君がそのままその世界に汚染されてしまったと言うことと同義にはならないだろう」
「………」
「事実、君は後悔している。それは君の、勝負に対する高潔な精神が、誤った手段の中にあり続けても、何ひとつ汚れなかったという証である」
「管弦楽……ありがとう……」
 ほう、と遠巻きに見ている連中が嘆息した。


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