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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-152

 そうして、弟の戦い振りを数字で追いかけていくうちに、いつのまにか賭け野球の面白みに興味を失い、むしろ嫌気を覚えるようになった自分を務は見つけていた。純粋無垢に白球を追いかけた頃の自分を思い出したのであろうか。賭け野球に興じる今の自分が、恥ずかしいものとさえ考えている。
「今度の試合は、負けてもいいと思ってる。それでチームがなくなっても、自業自得だからな。ただ……」
 務はもうひとつ、ため息をついた。
「風祭さんが、不憫でよぉ……」
 チーム・バッカスの結成に深く関わっているだけに、二人は仲がいい。年齢では風祭は2歳上なのだが、同年のように親しくしてもらった。
 しかし最近の風祭は、負けが込んでいるので余裕がないのか、昔の鷹揚さが微塵もなくなってしまったという。最近ではさらに荒んでいく一方で、たまの練習のときにも簡単なことでメンバーに辛く当たることが多くなったとも務は続けた。
「ほんとはさ、優しくて気のいい人なんだよ。金ってのは、そんな人まで怖い人にかえちゃうんだから、恐ろしいよな」
 かぱかぱと御飯を流し込むように食らう。酒が飲めない彼は、かわりにとてつもない大食であるのだ。
「暗い話はこんぐらいにしとこう」
 おかわり、と晶に勢いよく茶碗を差し出す。三杯目はそっと出す、という思考はないらしい。
 晶はことさら大盛りにして務に茶碗を渡した。この、優しい人に元気になってもらいたかったからだ。
 その気遣いはしっかりと務に届き、彼の暗い顔は瞬時にして穏やかなものに変化した。
「ああ、いいなあ。………なあ、亮。絶対、晶ちゃんを手放すなよ」
「っぐ」

 ごほごほごほ……

「ちょ、ちょっと!?」
 唐揚げでも喉に詰まらせたか、亮は激しくむせこんだ。慌てた晶がすかさず水を持ってきたので、それを煽るように流し込み、事なきを得た。
「はぁ〜………な、なんだよ急に」
「こんなにお前の趣味に理解があって、しかも、今時これほど美味い飯を作れる娘ッ子はいないぜ。俺は、もう、今すぐにでも“妹”になって欲しいね」
「も、もうお兄さん、褒めすぎですよ」
 晶がしきりに照れている。バスバスと背中を遠慮なく叩かれて、亮はとんだとばっちりだ。
「まあ、“同棲”しているぐらいだからな。心配はないか」
「あ、兄貴っ」
「照れるなよ。俺は嬉しいんだよ。下の弟どもはまだ小さいから、こんな話はできねえし」
 木戸一家は、四人兄弟である。長兄に務、次弟に亮。その下に、まだ小学校の双子の弟がいるのだが、実家にいる務は、出張でほとんど家を開けっ放しにしている父親に代わって、親同然にその双子の面倒を見ている。
 だから、七つ違いとなる弟の亮には、それでも同年代に似た親密さがあり、そんな亮と大好きな“女の話”ができるというのは楽しくてたまらないのだ。
「おふくろも、晶ちゃんに逢いたがってたぜ」
「は、話したの?」
「おおよ、亮のヤツがとうとう女の子を部屋に引っ張り込んだってな」
「あ〜に〜き〜……」
 それは絶対誤解を生む言い方だ。どちらかというと厳格な部類に入る母親に、そんなふうに報告されているとしたら、怠惰な生活を送っていると思われてしまいかねない。
「心配すんなって。おふくろ、メチャメチャよろこんでたぞ」
「え?」
「お前に甘いからなあ。“亮ちゃんの彼女に、早く逢ってみたいわ〜”って、はしゃいでた」
「………」
 なぜか晶が顔を真っ赤にしていた。そして、緊張したように身を固くしている。
 そんな仕草が可笑しくて、さっきまでの暗鬱な表情が嘘のようにくつくつと笑いこける務であった。


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