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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-151

 正直、“兄貴には釣合わない人だ”というのが第一印象だった。しかし、いろいろと話をするうちに、その“安原美野里”という女性が心から務を慕っていると知り、兄の面倒見の良さと不器用な優しさを思い出した亮は、そんな兄を少し疎遠にしてしまっていた自分を恥じるようになった。
 だから、兄との交流は以前と同じように…いや、それ以上に頻繁なものになっている。
「お兄さん、晩御飯は食べました?」
「お、いいのかい?」
「食べてないのか。だったら、入っていきなよ」
「いやー、悪いね弟よ」
「ちょっとスパイシーな献立だけど、お兄さん大丈夫?」
「ああ、最高だ。辛いのは大好きだよ」
「良かった。ささ、どうぞ」
 その中で、晶はほとんど身内のようになっていた。
 まさか“荒”の近藤晶が、弟の部屋でかいがいしく家事にいそしんでいるとは思わず、それを初めて知ったときは唖然とするばかりだったが、慣れてしまうと妹が出来たようで、男所帯の長兄である務としては頬が緩んでしまう。
 あと、朴念仁で野球以外では他に面白みのなかった弟が“女”に開眼したことも、兄としてはからかう話題が増えて嬉しかった。
「どうしたんだよ?」
「んー」
 亮の問いにすぐに答えず、務は差し出された茶碗の御飯をかき込みながら、スパイスの効いた唐揚げを頬張る。なかなか食欲をそそる辛さに、たちまちにして茶碗は空となり、務はおかわりを求めた。
「はい、どうぞ」
 晶は、恋人の兄である務には従順だ。ひょっとしたら、将来的なことを睨んでいるのかもしれない。
「兄貴」
「ああ、すまん。あんまり美味いもんで、意識がこっちにいってたよ」
 弟の問いに答えなければなるまい。務が部屋を訪れるときは必ず一報を入れるのに、いきなりやってきたものだから、この心優しき弟はそれを不思議に思っているのだろう。
「ちょっと愚痴をな、言いにきた」
「え……」
「ウチのリーダーが、またやらかしてなあ」
「………」
 務が所属している草野球チーム“バッカス”は、リーダーの風祭が賭け野球に嵌っているため、そんな試合を数多くこなしている。昨年、大きな賭け試合に勝利してからは更に調子に乗ったらしく、だんだんとエスカレートしているとため息を交えて務は愚痴をこぼした。
「………」
「ああ、晶ちゃんにはあまり楽しい話じゃなかったな。すまんね」
 晶が複雑な表情をしているのに気づき、務は慌てて付け添えた。その大きな賭け試合というのは、晶が相手方の助っ人として投げた試合のことだからだ。
 確かに、後ろ暗い過去でもあるので晶としては無理に触れたくない話題ではある。しかし、それでも彼女は“大丈夫”だと言うことを身振りで務に伝えた。
「メンバーもさ、いい加減愛想を尽かして、どんどん離れていっちまったよ」
 いつもは軽妙に明るい務が、少し寂しそうに言葉を零す。
「おかげで勝てなくなってね。……正直、次の試合で負ければ完全にチームはダメになるだろうな」
「兄貴……」
「でもな、今回はお前に助っ人を頼んだりしないよ。もうお前は、こんな世界と関わっちゃダメだ」
 務は亮の戦いぶりを把握している。隼リーグは軟式野球の大会とはいえ、地元新聞のスポーツ欄にも小さな記事ながらしっかりと載る。いつか務はそれを気にかけるようになり、気がつけばその記事をスクラップにして保管するまでになっていた。


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