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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-111

「くっそー! 見逃しちまった!!」
 悔しそうに、バットの根元の方を自分のメットに叩きつける渚。わずかに気後れしたことに“渇”を入れるためだろう。そのすぐ後で、晶を睨みつけるように構えに入る。
 ばちばちと散る火花。初回から戦いはヒートアップしている。
 晶の脚が高く上がった。鞭のようにしなる腕の振りから放たれた速球が、牙をむくように、亮の構えた内角高めのコースをめがけて唸りをあげた。
「!」
 渚が振ってきた。それは、強引とも言えるスイング。 
 だが、体の軸は崩れていない。すなわち、スイングスピードは損なわれていないということだ。

 キン!

 ボールが、高く舞った。
「!?」
 晶はその行方を追う。二塁手の新村が、大きく手を振っていた。なんのことはない、平凡なセカンドフライ。
 ボールがグラブに収まる、乾いた音が響いた。
「アウト!!!」
「ちっくしょー! こすっただけかよっ!!」
 取りあえず一塁まで走っていた渚は、途中で足を止め地団太を踏んでいる。
「スリーアウト!!! チェンジ!」
 初回の攻防はともに三者凡退で終了。まさに、拮抗した試合を思わせる始まり方といえよう。
(………やるじゃないの)
 そして晶は、空振りを奪うつもりで投げ込んだ速球を当てられた事に、かすかな戦慄を覚えていた。




「ボール! フォアボール!!」
 2回の表。4番の亮が四球で出塁した。
「ちっ」
 渚がマウンドを蹴る。ファウルを続けさせて追い込みながら、フルカウントに持ち込まれ、決めにいった“日の出ボール”が少し高めに浮いてしまった。
「渚ぁ、惜しかったよ」
 悟が気にするなとばかりに、やんわりとボールを返してくる。相変わらず、彼は飄々としたものだ。
(次は、ブロンドのねーちゃんか……)
 右打席にエレナが入っていた。渚は気を取り直して相手の5番打者と対峙する。
 悟に見せてもらった成績ファイルでは、彼女の長打力は相手の4番を上回っている。それでなくとも、6本のホームランはリーグトップの数字。特に注意が必要だ。
(でかい……)
 おそらく、相手チームでは一番の長身だろう。それに加えて、胸と尻の出っ張りが、これまたよく目立つ。
 悟が、内角低目を要求してきた。打者の体格を思えば、妥当だと思う。手足が長いぶん広がるストライクゾーンのうち、相手が最も窮屈になるところを攻める。
「ストライク!」
 案の定、見送ってきた。
 二球目は、さらにコースを内側に入れる。あのダイナマイトバストに当てないよう、低めギリギリを狙って投げ込む。
「!」
 同じ内角ということで、エレナが振ってきた。しかしボール一個、内側に入れてある。
 がつ、と根元で弾いた白球はファウルゾーンを力なく転がった。
 これで、2ストライク。追い込んでしまえば、投げるボールはただひとつ。
 渚が、セットポジションから柔らかいモーションで“日の出ボール”を繰り出した。ボールカウントが入っていないから、ストライクゾーンは外して。
 エレナは、またも振ってきた。しかし、二球目と同じように鈍い音が響き、遊撃手の目の前に球が転がった。
「いただき!」
 美作がそれを取り、ベースカバーに入った二塁手に投げてよこす。これで亮は封殺され、1アウト。二塁手はすかさず一塁へ送球し、ファーストミットの音を鳴らした。
「アウト!!」
 絵にかいたようなダブルプレー。無死一塁は、あっという間に二死無走者となった。
(なんだよ。振りは鈍いし、球の見極めもできてねえじゃねえか)
 渚は思うほどエレナに脅威を感じなかった。





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