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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-11

 ゴッ!

 と、ボールを強く叩く音が響いた。
「お、おおお!」
 強烈なライナーが、右中間(センターとライトの間)に向かって伸びる。少し、弾道の低かったそれは、しかし、ぐんぐんと加速をつけてゆく。
「………」
 センターもライトも追うのを止めた。ボールがそのまま、川の中ほどまで飛んでいったからだ。
「………」
 場は、騒然とした。
 3打席連続本塁打。それも、完璧な。
 ベースを一周する亮を、誰もが畏怖の目で見る。
 相手チームは、絶大な信頼を寄せていた晶が打たれたことに。
 味方チームは、事も無げに3本目の本塁打を打った助っ人に。
 ………呆然としていた。
(これで、みっつ)
 ただ一人、亮だけが、おそらくは最後の打席になるだろう次の勝負に向けて、気合を高め続けていた。



 8回を終了し、3対3の同点。結局、晶が喫した失点と被安打は、全てが亮の本塁打。かたや、亮のインサイドワークに助けられ、味方チームのマウンドを預かる新藤も初回の3点だけで凌いだ。
 最終回の攻防に入る。9回の表、相手チームは上位打線。
 しかし、初回の3点に気を良くしたのか、大振りが目立っていた相手打線は、亮の緩急をつけたリードに翻弄され、狙い球も絞らない早打ちの結果あっさりと凡退し、瞬く間に2アウトになった。
 晶が打席に入る。本田たちは、ある種の怒気を孕みながらその打席を見ていた。無理もない。必勝を期して雇ったはずの晶が、3本の本塁打を打たれているのだ。せめて、そのバットで汚名を返上しろとでも言いたいのだろう。
 しかし、当の晶の顔には、諦めにも似た表情があった。だから亮は、この打席の晶には何の脅威も感じなかった。案の定、晶はボール球に手を出し、ピッチャーフライに終わってしまった。
 野次が、怒号となって味方であるはずのベンチから飛んでくる。
(ちっ)
 亮は、そんな彼らの態度が気に入らない。自分たちで助っ人を頼んでおきながら、追い詰めるような真似をする。野球の楽しさは、こんな光景の中には、欠片もない。
「リー坊、顔が恐いぞ。もう、負けはないんだぜ」
 そう言って、ほくほくと笑っているのは風祭だ。とりあえず、これで負けはなくなった。引き分けなら、勝負はチャラになるから、自分たちには負けはない。
 とりあえず、損はなくなったのだ。
(バカを言わないでくれ)
 そんな風祭の顔つきにも、亮は嫌悪を覚えた。胸のむかつきは、最高潮だ。
(俺の勝負は、終わっていないんだ)
 最後の打席は、9回裏の先頭打者。この打席で凡退してしまえば、最初の自分に対する誓い通り晶の勧誘を諦めなければならない。それでは、これまでの3本の本塁打に何の意味もなくなってしまう。
 ぐ、と気持ちを締める様にグリップを握る。そして、打席に入った。
(?)
 しかし、晶の様子がおかしい。こっちが相手をにらみつけても、何も反応しない。それどころか、目を併せようともしないで俯きがちになっているではないか。
(あいつ……)
 晶が、振りかぶった。その投球フォームに、これまでの力強さは微塵も感じなかった。
 そして、放たれたボールもまた、今までの峻烈さが嘘のような、棒球。
(なんだよ! こんな、つまらない球―――――!)
 そんな球は、亮のスイングにあっさりと打ち放たれ、川の中ほどまで弾き飛ばされた。
 4打席連続本塁打。そして、試合の勝敗を決するサヨナラ・アーチ。


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