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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-109

「なあ、悟」
 マスクを取り、額の汗を拭っている悟にそっと耳打ちする美作。
「……いい加減、女の修行させんか?」
 仲間としてつきあうぶんには、渚の元気のよさはとても気持ちがいい。誰にも気兼ねしないそのサッパリした性格は好感が持てる。
 しかし、女性というところに視点を置くと、なんというか、渚の行動はいろいろ頭を抱えたくなる。例えば、合宿の時にはいつの間にか布団を蹴飛ばして腹を出して寝ているし、他の男連中よりもかぱかぱと飯はよく食べるし、周りに誰かいてもかまわずでかい屁はするし、洗濯物は誰かに押しつけて逃げ回るしで、女性としてのしおらしさが欠片も見えてこないのだ。
「このままじゃ、俺はアイツの将来に不安を感じるぞ」
 よく見ればかなり器量がいいだけに、美作は常日頃、勿体無く思っているのだ。かといって、渚に対して特別な感情を抱いているというわけではない。簡単に言えば、弟のような妹を心配する兄という具合に、渚のことが心配なのである。
「渚は、僕がもらうから大丈夫ですよ」
 さらりと悟が言う。この優男はいつもそうやってはぐらかすのだ。
「なあ、悟、いつもそう言うけどな……」
 いいかけてやめた。こっちがムキになればなるほど、悟はひらりはらりと事を流すのだ。何というか、手応えを感じないまま、いつもやりこめられる。
「なあなあ、内緒話は男らしくねーぜ」
「ああ、ごめんね、渚。今日も“日の出ボール”調子いいなぁって、主将と言ってたんだ」
「だろ? やっぱ、そうだろ!」
 ますます得意になり、胸を張る渚。
「はぁ……」
 微かに膨らんでいるその部分に、いまのところは女であることを見てもらうしかない。
「それよりも、近藤晶ですよ」
「ん? あ、ああ、そうだな」
 悟と美作は、マウンドで投球練習を行う晶に視線を注ぐ。
 柔らかくダイナミックなフォームからしなるように左腕が振られ、白球が糸を引くようにミットの中へ吸い込まれている。
 8分の力で投げているように見えるが、ミットを貫く音がこっちまで聞こえてきた。それだけキレと威力のある球だということだ。
「やっぱ、すごいな………」
「29イニング連続無失点。18イニング連続被安打0。4試合の合計奪三振は64個。はっきりいって、怪物ですね」
 それでも顔色を失わない悟。この冷静さが、今は頼もしい。
「最後の試合には、もってこいの相手ですよ。心置きなく野球が楽しめそうです」
「悟……」
 美作は、この試合にかける悟の想いの強さを、マウンドを凝視するその眼差しに見ていた。



「晶、今までの試合は忘れろよ」
 マウンドに寄った亮は、まずは慢心を戒める。
「わかってる。今日は、1点勝負になりそうだね」
 相手バッテリーの脅威を、晶もまた感じ取っていたらしい。亮は、自分以上にその帰趨を嗅ぎ取れる晶の勝負勘を頼もしく思った。
「亮」
 晶は左手を差し出した。亮はミットを外すと、その手をぐっと握り締める。いつからか始まった、投げる前の景気づけ。
「パワー、いったか?」
「ん、きたよ。ビンビンにね」
 ぱちり、と晶ウィンク。
「よし、いくか!」
「うん!」
 最後にタッチを交わして、亮はマウンドから離れていった。
(今日は、負けたくない)
 ロージンバックを左手ではたき、相手のベンチをのぞき見る。


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