『STRIKE!!』(全9話)-106
6月の最終週。梅雨の合間をぬうように、晴れ晴れとした晴天が空を覆う中、その試合は始まった。
城南第二大学と星海大学のメンバーが中央に集まり、一礼をする。お互い負けられない試合だけに、これまでとは違った緊張感がふたつのチームにはある。
ふと、頭を上げた晶の目に、見覚えのある顔が入る。あどけなさを残す、高校生にも見えてしまう小柄な青年。
「あ、きみ……」
開会式のときに、風に飛んだ帽子を拾ってくれた青年だ。相手もそれと知っていたのか、夏の爽快さを絵にかいたような微笑を返してくれた。
「山内です。お互いに、頑張りましょう」
ふいに、右手を差し出してくる。晶は自然と手を伸ばし、握手を交わしていた。
「晶、どうした?」
相手の手が離れ、皆がベンチに下がっていく中、なかなか動かない晶を心配して亮が声をかけた。
「あ、ごめん」
大事な試合を前に、ぼーっとしていたことを反省する。一瞬、あの爽快な笑顔に忘れかけたが、対峙しているのは間違いなく総合優勝という目標に立ち塞がる敵なのだ。
メンバー表が、電光掲示板に羅列されていった。城二大は先攻めなので、ベンチの中からそれを見守っていた。
先攻:城二大
1番:長 見(中堅手)
2番:斉 木(遊撃手)
3番:高 杉(三塁手)
4番:木 戸(捕 手)
5番:柴 崎(左翼手)
6番:原 田(一塁手)
7番:新 村(二塁手)
8番:長谷川(右翼手)
9番:近 藤(投 手)
後攻:星海大
1番:笹 本(右翼手)
2番:小 柳(二塁手)
3番:帆 波(投 手)
4番:山 内(捕 手)
5番:加 藤(中堅手)
6番:佐々木(三塁手)
7番:川 辺(一塁手)
8番:山 下(左翼手)
9番:美 作(遊撃手)
星海大の面々が、守備に散った。マウンドに立った投手が、投球練習のために振りかぶって投球に入る。
「………」
そのまま一度、低く沈み込んで、浮き上がるようなモーションから速球を繰り出した。その球筋もまた、低空から上昇するジェット機のような軌跡を描いて、相手捕手のミットを貫いた。
「話には聞いていたけど……」
アンダースロー。潜水するように腕が低いところまで下りるので“サブマリン”とも称される投球フォームに、亮はうなる。
高校時代にも対戦したことのないタイプの投手だ。変則的なオーバースローやサイドスローの投手とは幾度も戦ったことはあるが、あれだけお手本のように完璧な下手投げはお目にかかったことがない。