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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-107

「………」
 城二大の誰もが、その華麗な姿に目を奪われている。まさに蝶の舞うごとく、柔らかい体の動きから、キレのある球を次々と投げ込んでいるのだ。
「おっ」
 最後の投球のあと、浅く被っていたのか帽子が飛んだ。小麦色に焼けた肌が、太陽のもとに晒される。猫を思わせる切れ長の瞳と、精悍な顔つき。そして、無造作なまでに短くカットした髪が、健康的な少年を思わせた。
 しかし、生物学上、マウンドにいる人物は女である。
「よっしゃー! 今日も快調!」
 腕を大きく広げて、太陽に向かって咆哮しているところを見ると、やっぱり腕白少年のように見えてしまうのだが。
「あれが、噂の……」
 帆波 渚。彼女の名前だ。星海大学に通う2回生。野球どころ四国の出身である。
 彼女の特徴は、何といっても健康的な小麦色の肌であろう。それは、実家が漁師をしているため、何度となく親兄弟にひっついて漁に同行していたことに起因する。
 一般的に女性ならば、色白であることを望むものだが、渚はむしろ自分の肌の色を誇りに思っている。
「審判、はやくやろーぜ! バッターさんも、ほら!!」
 ……男所帯で育ったせいか、言葉づかいは荒く、気も強そうだ。
 呆気に取られたように、審判は持ち場に着き、長見は打席の中に入った。
「すみません、ガサツな子で……」
 捕手の山内悟が、恐縮しきりである。そんなマスクの下の爽やかな笑顔に、二人はわずかに昇った溜飲を下げていた。
「プレイボール!」
 審判の手が、試合開始を宣告する。
「悟! 行くぜ!!」
 待ちかねていたように女房(捕手の通称)の名を呼び、大きく振りかぶる。そのまま一気に上半身を落とすと、地面を這うようにして腕が振られ、弾道の低い速球が放たれた。
「い!?」
 白い球が、やけに大きく見える。それもそのはず。長見の顔付近に迫っていたからだ。
「うわ!」
 思わずのけぞる長見。そのすぐ近くを通過して、威力のある球であることを示すミットの爽快な音が響いた。
「ボール!」
(…………)
 なんでもないように悟はボールを渚に返す。どうやら、失投というわけではないらしい。
(威嚇かよ……やってくれるぜ)
 手加減はなし、勝つためにはなんでもやる、という敵側の意思表示。
(上等じゃねえか……)
 長見は力を込めて、次の球を待った。しかしその時点で彼は、バッテリーの術中に嵌っていたのである。

「晶、知ってるか?」
 ふいに亮が話を振ってきた。晶は、顔をそちらに向けて続きを促す。
「彼女、甲子園で投げたことがあるんだ」
「!?」
 晶は甲子園でのあの出来事以来、高校野球については見ることも聞くことも全くしなかった。それこそ、地元の出場校や優勝校がどこであるかを知らないほどに。
 だから、マウンドにいる相手投手が、自分と同じように甲子園に出場した女子選手であることなど知るはずもなかった。
「あの一件で、とりあえず高野協会は女子の硬式野球部への入部を認めたわけだけど、その申請認可第1号が、彼女……帆波渚だったんだ」
 晶が甲子園に出場したのは1年生だった夏の大会のとき。と、いうことは、同級生らしい帆波渚はそれ以降に台頭したことになる。
 炎天下での試合や練習に男子並についていける体力……それを証明しなければ、協会に認められない。人の命が関わることだけに、かなり厳しい考査が行われたらしいが、それをまるで朝の散歩でもするかのように合格したそうだ。
「結構、話題になったんだ。チームも、春の選抜大会で甲子園に出てきたんで、すごい人気だったよ」
「ふーん……彼女、エースだったの?」
「いや、さすがに控えだったけど。……まあ、ちょっと色々あった」
「え?」
 亮はなおも話を続けた。


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