ヴァンパイアプリンス7-1
今日も、いつもと変わらぬ朝が来た。
冬の朝の冷たく張り詰めた空気が、宏樹の頬をさす。
う-んっとベッドの中で寝返りをうった。
朝起きるための、最後の抵抗。
冬の寒さは毎年の事だが、何年たっても一向に馴れる気配がない。
まぁ、それが冬の魔力なんだろう。
ベッドの中で未だもぞもぞしていると
『起きろ-』と、一階から雅人の声が聞こえた。
バスケ部の朝練は早い。
宏樹は仕方なく、毛布をバッとめくる。
「寒ッ」
枕もとに脱ぎ捨てたセーターを肩に引っ掛けて、携帯を開く。
宏樹には、どうしてもしなければならない事があった。
朝一番の宏樹の仕事だ。
着信履歴からある名前を探し、受話器の上がっているマークをプッシュする。
ープルルルル
いつもと変わらぬ呼び出し音。相手が出るのまでのこの待ち遠しい時間。
宏樹はそわそわしながら彼が電話をとるのを待つ。
宏樹の日課、それは月下に毎朝モーニングコールをかけること。
「もしもし…」
相手が受話器を取ったと同時に、宏樹は嬉しさがこみ上げた。
「おはよう、月下。」
寝起きの悪い彼女のために精一杯の愛情をこめて挨拶する。
「おはよ…宏樹…」
月下は宏樹の電話で起きたらしく、まだ意識がはっきりせずに今にも眠りそうな声で話す。
「寝ちゃダメだよ?もう起きる時間」
「う…ん…」
「今日もいつもの時間だからね。」
受話器の向こうで、月下があくびをしているのがわかる。
「わかった…起きる。」
「ん…じゃ、また後で。」
「うん。じゃ」
宏樹は名残惜しそうに、携帯を切った。「よしッ」
宏樹は支度をするために一階に降りていった。
ー…
「やば-いぃ-!!遅刻だぁ-!!」
久しぶりに(宏樹の)目覚ましの音で起きれたと思ったのに、二度寝。
月下は、必死で宏樹との待ち合わせ場所に走る。
今日は終業式。今年最後の登校日に、彼氏共々遅れたら相当恥ずかしい。
携帯の時計は8時10分をさしていた。
「宏樹ぃ〜ごめんねぇ!!」
ふぇ〜っと情けない声を出し、月下は鞄を背負う。
「絶対間に合う!!」
自分に気合いを入れて、角を曲がると…ードンッ…
「のわッ!!」
「ごッ…ごめん!!」「いえ、こちらこ…宏樹!!」
「月下!!」
宏樹は月下の顔を見ると、苦笑した。
「また泣いてたの?」
宏樹は月下の目元に指をあてる。
「泣いて…ない〜!!」
月下は言ってるそばから涙を零した。
「泣いてないって言ってるそばから泣かないでι」
「だって遅刻しちゃう〜」
「あぁ…なる程。」
宏樹が携帯を見ると、学校が始まるまで25分を切った所だった。