【瞬間〜LAST WORD】-1
怖かった。
自分以外の他人にぶつかって、もしも拒絶されたら…でも、もう一緒になんていられない。
この時間が長くなれば長くなる程、悲しいのはあなただから。苦しむのはあなただから。
この時私は本気でそう思っていたんだ。
その夜は、もう晴れる事はないんじゃないかと思うくらいの嵐の夜だった。
今夜、ひとつの電話のコールがなる。
『もしもし?』
「…ねぇ、あんたの彼女別れたいらしいよ」
電話口の女の声には聞き覚えがある。
しばしの沈黙・・・
ただ鳴り響く、雨の音。
『…そっか。わかった。』
彼はすべてを理解した。たった一言で自分の身に起きた真実がわかってしまった。
でも電話口の相手はその了解を許してはくれない。
「はぁ?何がわかったの?まだ理由も言ってないのに何をわかったの?」
…
「あんたといると辛いんだって。いつも笑顔でいなきゃって、いつも元気で明るい子でいなきゃって疲れ『もういいよ!」』
普段怒ったりなんて絶対しない彼が放った一言。
『もうわかったから、やめてくんないマジで』
「…辛くないの?悲しくないの?別れたくないんじゃないの?」
『全部お前が言ってる通りだよ。でも、そろそろ言われるかなぁって思ってたから。逃げてたんだよね、俺。あいつと別れたくないから、別れようって言われるのが怖くて逃げてた。辛いけど、そんな事俺が言ったらあいつがもっと辛くなっちゃうだろ?』
そこまで彼は一気に言った。女の口から次の言葉がでる前に…
『それに、今は俺より言ってるお前の方が辛いだろ?・・・ぅん、ありがとね。とりあえず、じゃあ』
昨日の嵐は何だったのだろうか。朝から秋晴れと呼ぶに相応しい空が広がっている。
いつも通りの朝。
おはようと挨拶をかわす声があちらこちらから聞こえる。
そんなありきたりな日常の中、いつもと違う私がいる。いや、正確には違っているのは私の心だけだ。顔にはちゃんと“いつも通り”笑顔の仮面をつけていてくれる。
「…おはよう」
「おはよ」
昨日私の代わりに彼に電話をかけ、私の気持ちを伝えてくれた彼女が来た。目が腫れているのは気のせいだろうか。
「電話、したよ。全部、言ったから。」
一言ひとこと、区切るように伝えてくれる。その話し方だけでどれほど辛かったかわかった。
「うん、本当ありがとう」あえて何も聞かなかった。彼女の目を見ると何も聞けなかった。
「わかったって。…あいつは最後まで優しかったよ」「そっか…ありがとね、ほんと」
「うん」
私は自分で伝えなかった。それを伝えてくれたのは、彼を好きになり、彼にふられた彼女だった。
私は一度に二人の人を傷つけたのだ。ただ自分を守る為に。我儘の為に。
その時彼女には他に好きな人がいたから。私の友達だったから。