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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館の花達〜双女花〜-3

些細な事。だが、それが完璧を崩したのだ。
『あの二人、いつも信頼し合って以心伝心なのに…』
『女の子関係かなぁ♪』
まさか…あの紅様に限ってそんなことは無いだろう。今まで数多くの美人が誘っても決して揺るがなかった固い人だ。
ゼロと恋人関係になる前までは、私も紅様を好きな一人だったわけだが…
『あ、ご主人たま♪』
窓の外を指差している。
帰ってきたのね、さてさて、新人はどんな子かな?と思い、見た瞬間ビシッ!と固まる…
『な…ナニあれ…』
黒髪…いや、少し紫っぽいショートヘアーの……エルフ、そうたぶんエルフの女の子だ。
だが、問題はそこではない。
『…ご主人たまのローブ〜 ご主人たまの御姫様ダッコ〜…』
何より、あの少女を見る紅様の表情…
『…恋してる〜?』

言われなくともわかる。紅様のあんな眼差しは初めて見た。
『………』
『………』
私とゼロは、二人してしばし窓の外を呆然として眺めていた。
『あ、アルちゃん………怒ってる?』
ウェザの後で馬車から降りてきたアルネ、ゼロの言うとおり、不機嫌そうだ。
何者なのだろう?あの少女は?

『………』
『………紅様が……』
『えぇ、あなたも見たの………』
夕食の時間、いつもならなかなか楽しい時間なのだが、今日は違う。
さっきの少女の話でもちきりだ。
何故あんな小娘が紅様の心を奪ったのか?
メイド、特に紅様に影ながら特別な気持ちを持っているメイド達はそこかしこで井戸端会議をしている。
私とゼロは井戸端会議に参加していない少し年輩のメイド達と一緒に席に座り、夕食の準備が出来るのを待っていた。さすがに年輩のメイド達は落ち着いている。
あの方でも、ちゃんと恋することもあるのね、と傍観する姿勢だ。

やがて、紅様が入って来てその後に少女も遅れて入って来た。
『皆、聞いてくれ。』
もう慣れたが、紅様の一言で井戸端会議はすぐにやむ。
『新しく入った、シャナだ。 皆仲良くしてやってくれ。』
『シャナです、皆様よろしくお願いします。』
少女の名前…シャナ。
ペコリとお辞儀する姿はとても可愛い。
メイド達も、本心からかあるいは嘘なのかわからないが笑顔で手を振っている。
しかし、紅様がシャナをいつも空席にしている自分の右側の席に座らせると場の空気が変わった。
数人のメイド達、それも、先程まではのほほんと二人を見守ろうという立場をとっていた年輩のメイド達が一斉に表情を変えたのだ。
(な、何なの…? あの席…?)
あの席は私が紅館に来た時から空席だった。だが、その理由は知らなかった。ゼロに聞こうかと思ったが、ゼロも私と同じような表情だったため、知らないのだろう。
だが、紅様は別に気にする様子も無く、やがて紅様はシャナを抱きかかえると食堂を出ていってしまった。
『…皆、気にしないで食事を続けなさい。』
アルネがそう言うが、皆の口が塞がるわけでは無い。またあちこちでメイド達が集まりさっきのように井戸端会議が再開される。
だが、さっきと違うのは…
『紅様…あんな感じの子がタイプなのね…』
『シャナさんが羨ましいわ…』
皆の認識が、シャナが紅様の心を奪った。のではなく、紅様がシャナに心を奪われた。になったことだ。
文にしてみれば、受け身型になっただけだが、意味では違う。
あれはどう見ても紅様が積極的ね…
しかし、雑談とは怖いものだ。話が飛躍的に変化する…
『あれが紅様のタイプ…』
『きっとおとなしい子が好き…♪』
『巨乳より美乳好き…』
『獣人だからH激しい…♪』
『きっとおとなしい子をヒィヒィ言わせるのがお好き…』
・・・変化しすぎでは?
『ご主人たま、きっと後ろからするのが好きだね〜♪』
あんたが元凶か……!

私とゼロは食堂を出た。雑談は最早誰にも止められないくらいに変化し、今では顔を真っ赤にしているメイドが居るほどである。
あぁ、可哀想な紅様。明日から皆から白い目で見られる………かも…
『そんなこと無いよ〜♪
皆冗談だってわかってるもん♪』
『…人の心見透かさないでって。』
以心伝心といえば聞えが良いが、私とゼロでは一方通行。
ゼロだけが私の心をわかって、私はゼロの心がわからない。
(なに考えてんのかしら…)
『スーちゃんのこと〜♪』
…あ、なんだかムカついた…
廊下を二人で歩くと、静かな闇が二人を包む。
暗い廊下、闇を愛する一人のメイドの仕業で、この廊下では月と星の光だけしか輝かない。
それでも呑気なメイド達は風流だと言ってやめさせようとしない。
だが、やめさせない理由は風流なだけでは無い。
闇はいろいろと隠してくれるからだ。
そう例えば逢い引きの相手の姿とか…
『………ア………ヒャン…』
静かな廊下の奥から、微かに聴こえた声。 艶やかな嬌声。
女性の…そして間違っていなければ、シャナの。
そして、相手は勿論…
『………』
ゼロと私は二人目を見合わせる。
(紅様とシャナさん…してる?
今日会ったばかりでしょう?)


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