impertinent teachar&student−3-1
「…ってか、数学の時任。授業分かりやすいけど、なんか足りないよね〜」
その声は俺の後ろの方から聞こえて来た。
その声の主はさっき教えていたクラス−3組の女子の一人だと理解するのには時間はかからなかった。
中間テストが終わり、一ヶ月が過ぎようとする今日。
この間までは、カーデガンだけで登校していた生徒は、学校指定のジャケットを着るようになっていた。
陽も早く沈むようになり、冬を迎える準備が着々と進んでいた。
3年は追い込みの時期であり、受験に対してより一層張り詰めた空気を醸しだして…いてもいいはずだが、半分はもう決まっている。だから、そんな空気はあまり感じられない。
そんな呑気な3年生の授業を終えた後、聞こえた一言だった。
「うん〜あ、なんていうの?やる気がないよね。先生って普通、熱血の塊みたい
なとこあるじゃない?で…」
もう一人の女子生徒が言った。
そんな廊下でのやりとりだけ聞いて、俺は”自室”へと戻った。
やる気がない、かぁ…
『あなた、熱心ねぇ』
ふっとそんなことを言われたのを思い出した。
俺は煙草を取り出し、一服する。
『体に悪いわよ』
俺の頭の中で、新雪みたいに白い肌をした女の顔が、眉間に皺を寄せている。
…そんなことも言われたことがあったっけなぁ。
コンコン。
ドアをノックする音がする。
俺は回想から一気に現実へと戻った。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、真田だった。
あれから真田は相変わらずのペースで来ていた。
「…何か考え事してました?」
不思議そうな顔で、尋ねてくる。
「…え?なんで?」
「煙草…灰が落ちそうです」
よく見ると、持っている指にまで灰が迫っていた。
「うわっ」
慌てて、煙草を消す。
「先生が焦ってるなんて、初めて見た」
あはは、と笑う真田。
笑われるのはあまり馴れていないが、決して嫌な笑いじゃなかった。
寧ろ、気持ちの良いものだった。
「あんまり笑うなよ…」
「あ、すいません。いつもクールな先生がそんなこと、すると思わなかったんで」
クールかぁ…
その言葉に思わず鼻で笑ってしまった。
「何か違います?」
「いや…何でもないよ」
俺は自分の仕事をしようと思い、デスクに向かった。
真田も大人しく座り、勉強を始めた。
一時間ぐらい経っただろうか。
何気に真田を見る。
テストが近いこともあり、真田は何かのを問題集と睨めっこしていた。
右手には、定番のD○.GRIPを携え、ペンの頭の方を顎に当てている。左手はノートを固定している。
これが真田の癖かぁ…
妙に感心してしまった。
でも、俺はこの姿を何度か見たことがある。
その姿は、俺を懐かしくさせる。と、同時に苛々させるものでもあった。