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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■十章■-3

「もうやめて!」
 顔中をくしゃくしゃにして泣きじゃくりながら、靜里は那覇の腕にしがみつく。
「離せ」
靜里の突然の行動で、焦りを隠せず、那覇が声を張り上げる。それでも、なお、靜里はより大きな声で言った。
「もうやめて!叶があなたに何をしたの?私が彼を好きなの、前世なんかどうでもいい、昔の夫も、昔の妻も関係ないじゃない。私はあなたとは何の関係もないじゃない。私はあなたのなんでもない、北村靜里という名前の・・」
声を震わせ、途中何度も鼻をすすりながら、靜里は言った。
「叶を殺さないで・・・お願いよ・・おね・・」
しかしそれはついに、泣き声に変わり、ずるずると那覇の体を伝い、その場へ崩れ落ちた。靜里の泣き声は、そこでおさまるばかりか、より大きなものとなって辺りを響かせ、那覇はきつく瞼を綴じた。
「ならば俺は何故、記憶をもった。ヴラド・ツェペシュ としての記憶が何故鮮明に残っている。お前を愛するために、お前をこうして捜しあてるために、生まれもったのではないのか」
誰に問うこともなく、呟き、そして、僅かな間をおいた後、那覇は叫んだ。
「今の俺に出来ることは、邪魔なものを消し、お前を手に入れることだけだ!」
一変の迷いも無い、ギラリとした瞳を見開くと、こぶしを振り上げ、再び貫く様な眼光を叶へ向けた。が、叶はそれにたじろぐ様子も無く、那覇を見上げる。
それを見た那覇は、振り上げた拳をぴたりと止めて言った。
「貴様、まさか」
「ああ!」
微笑を浮かべたかと思うと、叶は瞬時に体を起こし、それと同時に、作っていた拳が那覇の左足を狙った。
「ぐっ!」
叶の放った渾身の一撃に、那覇は低く唸り、ゆっくりと前方へと倒れ込んだ。
叶はそれを避けるようにして立ち上がり、悶える那覇を見下ろす。
「立場逆転だ。あんたもドラキュラと呼ばれていたのなら、この、超回復能力を知っているだろう。それとも、転生して、忘れたか」
「いい気になるなよ、ガキが!」
苦痛に顔を歪ませながら、那覇が言う。
「何を言ってもこれで終わりだ」
叶は右腕を大きく振り上げ、冷めた瞳に那覇を映して言った。
「叶」
すると、やっとのこと泣きやんだ靜里が、叶の上着の裾をつかんだままで、
「やめよう、もう帰ろうよ。この人だってきっと諦めてくれるよ」
と浅く首を振る。もう、これ以上の争いは見ていられない、と彼女の瞳は訴えていた。
しかし、その瞳を見てもなお、叶は右拳へ力を込め、そして言った。
「一瞬のうちに粉々にしてやる。俺の能力でな」
その言葉と同時に、叶の拳は那覇へ向かって急降下し、靜里はきつく瞼を綴じた。
「消えてしまえ!」
叶の、勝利を確信する叫びと共に、この空間は激しい衝撃音に包まれた。不快感な音色が、地面を伝い、空気を伝い、まるで波紋のように靜里の両耳へ届いてくる。
靜里はそれを防ごうと、両手で耳をふさぐが、それでもそれは止むことはなかった。無数の音の波紋が、少しの間鳴り響き、そして次第に消えていった。
完全に音が聞こえなくなると、靜里は両手を下げ、うっすらと瞼を開いた。が、しかし、おそるおそる開いた彼女の両目に映ったものは、靜里の想像していた、愛する男の勝利の図ではなく、仁王の様にいかめしく立つ、那覇の姿だった。多少足を引きずってはいるものの、それはまさしく仁王立ちである。
「そんな」
靜里は息を飲み、那覇を見つめた。心臓が、破裂しそうなほどフル回転を始めている。
「終わりだったのはお前の方だったな、叶」
と、那覇が言う。
「嘘」
靜里は何度も首を振った、押さえ切れないほどの震えが体中を一枚二枚と包みこんでくる。自分の瞳を疑いたくなるほど、その光景は残酷すぎたのだ。


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