ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-28
「な、何言い出すのよ! いくら姉妹だからってあたしがお姉ちゃんみたいに見えるわけないでしょ。あたしはお姉ちゃんみたいに女の子らしくないし、それに落ち着いてもないんだから。相沢、急に変なことを言わないでよねっ!」
「そうかな、朱鷺塚だって十分女の子らしいと思うけどね」
圭介は香織にそう言いながら以前、ケイとして香織と一緒に撮影をした時のことを思い出した。
あの時、圭介は香織をとても眩しく感じていた。
自分がケイとしてモデルをしていくら人気があってもやはり本物の女の子の魅力には敵わないんだな…と。
そして、撮影の時に香織が見せた笑顔が圭介の心の片隅に焼き付いていて、あの笑顔は圭介ではなくケイに向けられたものなのだと思う度になぜか圭介は切なくなっていたのだった。
しかし今回の香織の笑顔は撮影の時のものとは少し違うけど心からのものだというのが鈍い圭介にもわかるくらいに魅力的で、そしてその笑顔が圭介という偽りのない自分に向けられたものだという事実が圭介には嬉しかった。
「ば、ばかなこと言ってないでさっさと学園に帰るわよっ!」
顔を真っ赤にさせた香織は心の動揺を圭介に悟られないように乱暴な口調で学園に帰ることを促すと圭介を置いてズンズンと一人で歩き出してしまった。
その後ろ姿を見るだけでも香織の心境がまるわかりなのだが、そこを突っ込むと香織に殴られかねないので圭介は笑いを堪えながら香織の後を追った。
大量の荷物を持ち肩で息をしている圭介と落ち着きを取り戻した香織が学園に戻り、廊下を歩いていると自分達の教室がやたらと賑やかなのに気付き二人は首を傾げつつ急いで教室に戻るとみんなが取り囲むようにして何かを見ながら騒いでいた。
「みんなどうしたの?」
教室に入るなり開口一番に尋ねる香織に答えたのは加奈子だった。
「さっき、奈津子さんがここに来て衣装が出来たからって持ってきてくれたの」
加奈子の言葉を聞き、みんなの輪の中に入った香織と圭介は衣装を見て思わず絶句してしまう。
それもその筈で用意された衣装は確かにかっこいいものなのだがどう見ても露出度が高い。
「…こ、これを着るの!?」
衣装を見て表情が固まってしまった香織が声を震わせて呟いた。
そしてその言葉は圭介の心中の代弁もしていたのだ。
あまりの出来事に固まってしまった香織と圭介だったが、そんな二人を全く気にせず幸司が瞳を輝かせて嬉しそうに語り出した。
「まあ、朱鷺塚がこの衣装を着てもどうとも思わんのだが、あのナイスバディのケイさんがこの衣装に身を包むと考えたら…」
正に恍惚の表情だった。
幸司のその言葉で何人かの男子生徒が「ほぅっ…」とため息をつくと、圭介の背筋に何か嫌な悪寒が走ったのだった。
「……こ、この…こんのドエロのスケベンタイがぁぁぁっ!!」
鬼のような形相をした香織がもはや目にも留まらぬ速さで幸司の顎にアッパーを決めると次の瞬間には更に追撃の手を加えていたのだった。
「このっ、底抜けの大馬鹿がぁ! あんたの頭の中にはそんなことしかないのかっ。てか、どーしていつもいつもいっつもこーなのよ! 毎回毎回殴るあたしのことも考えてよね。もうこの際だからこのまま息の根を止めてあげようかしら……」
「あががっ! ま、待て、朱鷺塚! 痛っ、いてーってばよ! そ…そこ、そんなとこ踏む…ギャン……ッ」
倒れる幸司を何度も踏み付ける香織は最後に幸司の切ない部分を踏み付けると幸司は「そこは反則だろ…」と一言呟きその場で気を失ってしまった。
そして、その光景をクラスメイトと一緒に呆然と見ていた圭介の携帯がバイブでメールの着信を知らせると、圭介は教室の隅に移動してメールの内容を確認したのだった。
『学校が終わり次第、ソッコーで学園の裏門に来なさい。わかったわね!!』
メールの差出人は奈津子だった。
圭介は奈津子のメールの内容の意図を図りきれず教室の騒ぎをよそに奈津子に電話をするのだった。
「奈津ねぇ! あのメール、どーゆーことだよ?」
「ああ、さっき衣装をあんたのクラスに届けた時にねケイをそっちに行かせるから香織ちゃんとの衣装合わせをそっちでしてって頼んだのよ」
思わず目眩に襲われる圭介だった。
そんな状態の圭介を知ってか知らずか、奈津子は笑いながら「メールの通り放課後、裏門で待ってるから」と用件を伝えると電話を切ってしまったのだ。
毎度のことだが、奈津子のあまりの身勝手さに圭介は長いため息をつくのだった。