僕とお姉様〜僕の気持ち〜-2
数分後、茶色い包装紙に赤とピンクのリボンで可愛く着飾られた物体が僕の手元にやってきて、それを持ってる自分が恥ずかしくてすぐカバンにしまって店から離れた。
慣れない事はするもんじゃない、異常に疲れた。歩き回るのにも飽きて本屋で適当な雑誌をめくっていたらすぐ隣で同じく立ち読みをしていた学生に突然声をかけられた。
「どうも」
慌てて顔を上げるとその学生の正体は、お姉様の元彼。
「あぁ、…どうも」
あまりいい印象がないせいか挨拶にも愛想がない。
「朝子元気?」
「…朝子?」
「うん。ちゃんと生きてる?」
一瞬誰の事だか分からなかったが、こいつと僕の共通点は一つしかない。
あの人、朝子っていうんだ…
まさか第三者から、それも元彼の口から名前を聞く事になるとは。
「元気だけど」
「…ふぅん」
最初の挨拶以来ずっと本を見たまま話は続けられる。
「あいつ、物珍しくて高校生と付き合うだけだよ」
「…は?」
「話のネタにされたくなかったら早めに別れた方がいいぞ」
何言ってんの、こいつ。
あの人がそんな付き合い方するわけないじゃん。プリクラを握り締めて寝るような人だぞ?
まだお前の事が好きなんだぞ?
「そう思ったから手切れ金なんか渡したの?」
黙ってやり過ごすつもりだったのに、強がって僕を励ましてくれた昨日の笑顔を思い出してつい口を出してしまった。
「手切れ金?」
「いくら気に入らなくても、親の金使ってそんな別れ方すんなよ」
それだけはっきり言いたくて顔を見ると困惑した表情を浮かべている。
「それじゃ」
雑誌を置いて立ち去ろうとする僕を元彼は呼び止めた。
「まだ何か用…」
「手切れ金って何だ?」
「…へ?」
何だって何だ?
だって…
そこへ調度ひばりちゃんからの着信。
元彼はまだ何か言いたそうだったけど、僕は電話を理由に店を出た。
「もしもし?」
『強君?ごめんね、今着いた』
「うん、分かった。行くから待ってて」
心臓がドキドキしている理由はこれから始まるデートのせいだと言い聞かせた。なのに、望み通り普通の高校生のひばりちゃんを見ても心の隅っこが喜んでいない。
お姉様の顔がちらちら浮かぶ。
だってあいつのあの反応、手切れ金なんて知らないみたいな…
どうしよう、お姉様に話した方が―
「強君」
「えっ」
頭の中にいたお姉様の顔がぱちんと弾けて消えて、代わりにひばりちゃんの複雑な表情が飛び込んできた。
「まだ怒ってる?昨日の事」
「昨日…」
昨日と言えば、風呂場でのアレですか。
「怒ってないから何も言わな―…」
「ううんっ、言わせて!あれじゃロリコンの現行犯みたいだから!!」
僕は本気で聞きたくないのに、何も言わせまいとしているのかこの子の口は止まらない。
「こんな事言ったら余計生々しくて嫌かもしれないけど、あたし達そーゆうのないから!お父さんが高校生のうちは駄目だって。ほら、万が一妊娠したら大変でしょ?学校辞めなきゃいけないし将来の夢も諦めなきゃいけなくなるし。昨日のあれは、お父さんがお風呂から出た頃にあたしが行ってちょっとだけ…、その、ギュッてしてもらいたいなぁ…なんておねだりしただけで…、強君?」
説明の末、僕は机に突っ伏したまま動けなくなっていた。
口から魂が抜けてる感じ。
父さんの無実を必死で説得してるのは分かるんだけど、僕にとっては鈍器で殴られる以上の衝撃。
それはつまり今は何もなくてもいずれそーゆう関係になる予定って事でしょ?しかもおねだりって…、羨ましすぎるわ、クソジジイ!
「だからお父さんを嫌いにならないで」
「…へぃ」
父さんに軽く殺意を抱いている今の僕にそれは無理な相談だよ。
改めてこの子がどれだけ父さんを好いているか、いかに僕を家族としか見ていないかを再認識させられた。