『欠片(かけら)……』-8
「……ふぅ……」
まどろみと気怠さが、ないまぜになった気分に軽く溜息をついてあたしは身体を起こす。この逢瀬の後の感覚があたしは好きだ。
軽く髪を掻き上げながら小さく含み笑いをする。寿也にあんなコト言っておきながら、結局二日と空けずにあたしから男を求めてしまうのだから……
ふと視線を感じて隣りを見ると亘があたしを見つめていた。
「起きてたんだ……寝てていいのよ?」
だけど亘は静かに首を振る。
「澪さん……俺、すいません」
「どうして謝るの?」
「俺、その……」
そんな彼の額にあたしはそっとキスを落とした。
「大丈夫よ。素敵だったわ……」
拙い指使いに、ぎこちない動き。思った通り彼は女性経験が少ないみたいだった。寿也のような巧みさなどは無く、リードすることすら出来なくてお世辞にも満足は出来なかったけれど、全身でぶつかって来る熱さが不思議と心地よかった。
「ただ、勘違いしないでね。あなたと関係したけれど、付き合いたいとかそういう意味じゃないんだから」
「じゃあ、どうして……」
「そうね……身体が疼いちゃったから…ってコトかな?」
そう言って煙草を手繰り寄せるとあたしは火を付ける。溜息とともに吐き出した煙りが室内にゆっくりと広がっていった。
「軽蔑した?あたしはね、あなたが思うような女じゃないの……」
亘は何も答えないまま身体を起こすとあたしを抱き寄せる。
「せめてここを出るまでこうしていてもいいですか?澪さんが今ここにいるコトだけが俺にとっては全てですから」
服の上からは気付かなかった意外に逞しい身体があたしを包む。
「いいわよ……今だけは亘の好きにしていいから……」
あたしの身体にまわされた彼の腕が微かに震えていた。
静かに……
静かに心が軋む……
それを気持ちの奥に深く沈めてあたしはそっと目を閉じた。
週明け、あたしはいつものように出勤してデスクに向かう。そして当たり前のように日々は淡々と過ぎて行き、忙しさが心を埋めていく。
あれ以来、亘はあたしに話しかけて来なくなった。まるで避けているようにすら感じる。最初は軽蔑しているんだと思っていたけれど、どうやらそれは違うらしい。
時折、背後に感じる視線……
その視線には憎悪も敵意も含まれていない。あえて言うなら熱っぽさを込めた視線が亘からあたしに向けられていた。