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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-20

合わせるだけのあたしがアイツを追い詰めていた。今になって、アイツの気持ちがわかるなんて……捨てられた訳じゃない。アイツは不安から逃げたかっただけなんだ。

張り詰めていた糸がプツリと切れて、壁にもたれたままズルズルとあたしはしゃがみ込んでしまう。

「真実って、なにもかも失ってからわかる……使い古された言葉だと思ってたけど本当なのね……」
「澪さん……」
「あたしだけは違うと思ってた。だけど、あたしを振り回していたのは結局自分だったのね。笑っちゃうわ、バカみたい」

目に映る景色が見る間に滲んでぼやけていく。弱い自分に……我が儘な自分に気付いてしまった。抑えるコトの出来ない涙が次々と瞳から溢れ出して零れ落ちていく。

「まだ間に合いますか?」

突然聞こえたその言葉に答える暇もなく再びあたしは抱き締められ、亘の声が肩越しに響く。

「あなたを誰にも渡したくない。だから俺だけを見て下さい。澪さんを……澪を俺のモノにしたい……」

その一言に心を覆っていた最後の鎧が砕け散っていく……

「何、一人で熱くなってんのよ……バカ……」

広い背中に手を回して、あたしは掠れた声でつぶやいた。ゆっくりと……ゆっくりと心が満たされていく。いくら身体を満たしても得られなかった安らぎが、こんなにも身近にあったなんて……

剥き出しの心を包む温かさ、それはあたしが捜し求めていた欠片なのかもしれない。

「でも、あんたの気持ちは確かに届いたわ。大切なコトって言葉にしないと伝わらないのよね……」

何、わかったようなコト言ってるんだろ?思わず自分の台詞に笑ってしまう。あの時、素直に言えていたらアイツを失わずに済んだのだろうか?

亘……本当はあたしが言いたかった言葉なの、まだ間に合うの?って……
あなたにすべてを委ねてもいいの?って……

「澪さん、俺の傍に居て下さい。あなたを帰したくない……」

息苦しい程の抱擁があたしを包み込む。見栄も虚飾も嫉妬も強がりさえもとろけていく熱さ……それは新たな滴(しずく)へと変わって頬を伝い落ちた。

「……知らないわよ?……あたし、面倒臭い女なんだから……」

そんな悪態を笑顔で受け流しながら亘はそっとあたしを抱き上げてベッドに運ぶ。大きな手がゆっくりとあたしを生まれたままの姿へ変えていく……そしてそのまま、あたし達は肌を重ね合わせて眠りに落ちて行った。


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