『欠片(かけら)……』-14
この娘があたしから寿也を……
心に沸き上がる黒い感情。いいえ、割り切っていたはず。この娘のせいじゃないんだ。あたしは彼を独占する気なんてなかったはずでしょう?
頭の中で繰り返される自問自答……そのまま無言になるあたしに再び彼女は口を開いた。
「宮原さん、聞いて下さい。私、嬉しいコトがあったんです」
はにかみ頬を染めて彼女は笑う。やめて、聞きたくないわ。
「一週間前なんですけど……」
お願い、やめて……
「寿也さんが結婚式の日取りを決めようって言ってくれたんです」
……え?
「彼から?それ本当?」
寿也から?一週間前に?
「はい、驚いちゃいました。結婚の意思はあるけれど、まだしばらくは先だって言ってたのに、この前突然『そろそろけじめを着けたいんだ』って……きゃっ!恥ずかしい……」
彼女の声を遠くに聞きながら、あたしは別の事を考えていた。じゃあ、寿也が昨日あたしを抱いたのは……関係を精算する為のお詫び?
あたしを憐れんで?
「そう……おめでとう。お幸せにね……」
侮蔑を込めた賛辞の言葉を投げかけても、彼女は幸せそうに頷いていた。
「宮原さん、式には絶対来て下さいね」
「ええ、もちろん行かせてもらうわ」
その席で彼があたしをどんな風に愛してくれたのか話したら、あなたはどんな顔をするのかしらね?
指から伝わる鈍い痛みがあたしの心を掻き乱す。素直に祝福するなんて出来る訳がない。だって、あなたが知り合う前から寿也とあたしは……
「ごめんなさい、先に戻るわ。招待状、楽しみにしてるわね」
笑顔の仮面の下に素顔を押し込めてあたしはその場を後にした。いずれはこうなるはずの関係なのに敗北感を感じてしまう。あたしは彼女に負けたんだと……
あたしはもう用済みなんだと……
「はい、コーヒー。そこで由稀ちゃんに会ったわよ」
ソーサーをデスクの上に置きながら、あたしはそう言ってみた。けれど彼は別段に驚くでもなく頷くだけ。溜息をついてあたしは自分のデスクに座るとキーボードを叩き始めた。
「式には必ず出席して下さいね……だって。出席しちゃっていいの?」
「お前次第だろう?俺がどうこう言えるコトじゃないさ」
「スピーチでいろいろ暴露したらみんな驚くでしょうね……」
そこで初めて寿也は作業の手を止めてあたしの方を見た。軽く眉間に皺を寄せて溜息をつく。