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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-13

「宮原!指、どうしたんだ?」

 翌朝、気まずいはずの彼との再会はあたしの指に巻かれた包帯でなし崩しになった。まさに怪我の功名って奴なんだろう。

「誰かさんのお陰で怪我しちゃったわよ」

ちらっと横目で見ながらあたしが冷ややかに言うと、一瞬怪訝な顔をした後に寿也の表情は驚きに変わった。

「まさか!あの時の?」

寿也のネクタイを掴んで引き寄せるとあたしは耳元に囁く。

「気合い入れ過ぎ。声を殺す方の身にもなってよね」
「あ、いや、すまん」
「でも、今までで一番感じたわ」

ネクタイから手を離して椅子に座るあたしに、しばらく呆然としていた彼は、やがて我に返るとボソッとつぶやいた。

「お前、ああいうシチュエーションが好みなのか?」
「バカッ!鈍感!!」

あたしの気持ちを知ってか知らずか寿也はそんな言い方をする。最後のあなたの優しさをちゃんと受け取ったわよ。って意味だったのに……だけど、そんなところがあなたらしいのかもね。

「なぁ宮原、コーヒー頼んでもいいかな?」

もう彼が時にはわざと間違えてあたしを名前で呼ぶコトは無いんだろう。少しだけ淋しく感じるけれど、これでいいんだ。だけど座る位置は変わらないのに、とてつもない距離がお互いの間にあるようにあたしには思えた。

「いいわ、待ってて。いつも通りでいいの?」
「いや、ミルク多めでいいかな?少し胃をやられちまってな。悪いな宮原」
「了解よ。ちょっと待っててね」

踵(きびす)を返してあたしは小走りに給湯室に急ぐ。

不覚……少し弱々しく笑う彼の顔を見た途端に涙が出そうになってしまった。今更ながらにあたしの中で寿也の存在が大きかったコトを認めざるを得ない。悔しさと悲しさ、そして淋しさが心の中に溢れていた。

「こんなのあたしじゃない。違うわ……」

給湯室でお湯が沸くのを待ちながらあたしはつぶやく。制御出来ない感情に流され、自分の心が剥き出しにされていくみたいで怖かった。

「あ、宮原さんおはようございます。……って、どうしたんですか!?」

お湯が沸く頃に給湯室に来た彼女は、ヤカンに手を添えているあたしを見て驚いた声を上げる。

「由稀ちゃん……おはよ。どうしたって何が?」
「指ですよ指!怪我したんですか?」

こんなに大袈裟に包帯を巻くつもりはなかったけれど、意外に傷が深くて仕方なかった。いちいち説明するのも面倒だし、大した事じゃないとあたしは言葉を濁す。


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