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明日を探して
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明日を探して-1

「今日も暇ねぇ…… 客なんて来やしない」
 私の名はエクステル。『エクステル・ビアステラ』、女であり、『占い師』でもある。
 占い師と言っても街角の一角を借りて、小さなテーブルに水晶球を一つ乗っけただけの、何ともしがない易者家業(えきしゃかぎょう)だったりする。
 この街で占い師なんて、珍しい者ではないらしい。それが証拠に、通りを行き交う人々は、わたしなどに鼻を掛ける事も無く、ただただ忙しく通り過ぎて行く。
「こんな所で、こんな事してたって駄目ねぇ。だいたい時間が悪かったわ」
 占いなんて物は夕暮れ時…… あるいは夜、暗くなってからでないと客なんて者はめったに来ない。ましてや真昼間(まっぴるま)から『占い師』をかまっているほど人は暇でもなく。又得てして悩み事を抱えて居る人と言う者は、思っている事とは裏腹に、占い師なんぞに頼って居る、なんて事を他人に知られたくは無いらしい。辺りが薄暗くなってから、コソコソと人目を忍んでやって来る、そんなところだろう。
 したがって、おおむね確証の無い『占い』何て物に、頼らざるを得ない人が世の中にはごまんと居るとしても、そんな人達がこんな明るい時間にやって来るはずも無く、待てど暮らせど客足はさっぱりである。
 どうやら端から見れば、こんな日中、日の日向に店を出してアホ面をして ”ボー”っと客を待っているわたしなんかを見れば、誰だって近寄りがたいに違いない。
「あ〜、もう今日は帰ろうかなぁ……」
 わたしはだらしなく、テーブルの上に上半身を投げ出すと、横顔をテーブルの上にくっ付けて、目の前に有る水晶球に歪みながら映った自分の顔を眺め、出るのは溜息ばかりであった。


「きゃっ!」
 突然、何か軟らかい物がわたしの足に当たって来た。
 見ると小さな白い子猫が、ミューミュー鳴きながら、わたしの足に小さな顔を擦り付けているではないか。
 わたしはその小さな子猫を拾い上げ、膝(ひざ)の上に乗せると、
「どちたのかなぁ〜 こんな所でぇ」
 と、猫撫で声など出してみる。
 白くって、小さくって、少し長めの毛が全身を覆ってフカフカと、とても可愛い子猫である。
 飼い主は居無いのだろうか? 首輪も無いしぃ…… そんな事を思いつつ、わたしは子猫の頭を撫でたり、首筋を指で擽(くすぐ)ったりと、そんな事をして弄(もてあそ)ぶ。子猫も ”クルルルゥ”と、小さな唸り声を上げて、気持ちよさうである。
 しばらく、そんな事をしていたであろうか。
 気が付くと子猫は気持ちよさそうに、わたしの膝の上で、丸くなってお昼寝を始めてしまったではないか。
「どうしよう…… このままじゃわたし、帰れないじゃん」
 そう思ったわたしは、腰掛けの下に置いてあった、藤蔓(ふじずる)で編んだ手提げ籠を取り上げると、汗拭き用にと持って来ていたタオルを底に敷いて、その中にそっと子猫を入れた。
 そうして、それをゆっくりと、自分の足元に置き、にやにやと微笑んでもみる。幸せそうな子猫の寝顔を見ていると、何だかこっちも嬉しくなる。


 わたしが子猫の入った籠を足元に置いて顔を上げると、何時からそこに居たのやら、目の前に小さな女の子が一人、わたしの事を見詰めて立っているではないか。
 わたしは「占い師に何か御用ですか、お嬢さん」と、そう少女に尋ねてみた。すると。
「『あした』が見つからないの」
 少女は、私に向かってそう言った。
「明日ぁ!?」
 直ぐ様、わたしは呆けたような顔をして、目の前に居る少女にそう尋ね返していた。
 だってそうでしょう! 実際『明日が見つからないのっ!』、そんな事を唐突(とうとつ)に言われれば誰だって『えっ! あんた何言ってんのよ! 冷やかしならとっとと帰ってよね!!』なんて思うに違いないだろうし、当然わたしも、そう思った訳である。
 がしかし、当の少女は真剣極まりない様子であった。小さな手で作った握り拳を胸に当てながら、つぶらな可愛い瞳に涙をいっぱいに浮かべて、少し俯き加減で訴えてくる。
「お願いお姉ちゃん…… あしたを探して……」
 どうやら冷やかしでも、どっきりカメラでも無い様子である。
「ねえっお嬢ちゃん。何か辛い事でもあったの?」
 今にも泣き出しそうな少女の小さな手を握り締め、わたしは出来るだけ優しい声をだし、力に成れればと彼女に尋ねてみる事にした。


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