サンダーぱにっく。-1
―ゴロゴロッ
「ひゃっ!!雷鳴ってるよ〜…」
和泉は耳を塞ぎながら、ダッシュで教室を目指す。
(こんな時に忘れ物するなんて最悪ッ)
時刻は今、6時半過ぎ。下校時間も過ぎ、学校の中には生徒の気配はない。
(暗いよ〜怖いよ〜)
和泉は暗いのと、雷が大のにがてであった。―がらッ
教室に着いた和泉は、勢いよくドアを開け、自分のロッカーを開ける。
「…あった!置き傘ッ」
和泉は傘を手に取り、ぎゅっと握り締めながら、またダッシュで玄関に向かった。
―ぴかッ
「…へ?」
どんより曇った空が一瞬明るくなったかと思うと…
―ズドドドドンッ
次の瞬間、すごい音と共に地響きがした。
「…わッ…落ちたかなぁ?」
和泉は耳を塞いでいた手を外し、窓から外を見る。外は相変わらず、重い雲の絨毯が広がり、雨が音をたてて地面に落ちていた。
「ん?」
―ぷつッ
和泉が不思議な音を聞いたかと思うと、いきなり目の前が真っ暗になった。
「てッ…停電ッ!?いッ…いやぁぁあ〜!!!」
和泉は奇声をあげながら、来た道を凄い速さで駆け抜ける。
頼りになるのは、携帯の液晶の光だけだ。
和泉は足元を照らしながら、慎重に階段を降りる。
和泉が角を曲がった時―どんッ
「きゃッ!」
「わッ…て和泉じゃん」
「え?…あ。芳樹ッ!」
そこには、クラスメートの芳樹の姿があった。ユニフォーム姿なので、部活帰りなのだろう。
「…良かった〜ッ!」
「お、おいッ?!」
和泉はその場に座り込んでしまった。
「いや…なんかね、一人じゃ怖くて…」
「お前でも、怖いものあるんだな!」
芳樹が和泉からかう。
「この野郎ぉ〜」
和泉は芳樹に一発パンチを送った。
―ぱッ
「あ!付いたッ」
「ぐ…」
芳樹を殴った直後、すぐに電気が付いた。
「…わ!」
和泉が立ち上がると、芳樹が怪物を見るような目で和泉を見ていた。
「何よ?」
少しむッとした顔で、和泉が言う。
「…ホラ。」
芳樹は和泉の顔を見ないように、タオルを差出した。
「顔…拭けよ。涙…流れてる。」
「あ…りがと」
和泉は少し躊躇しながら、芳樹からタオルを受け取る。
「じゃ、俺行くから。」
「え!?やだ!困る!」
和泉は芳樹の服の裾を掴んだ。
「…怖い」
和泉は俯き加減に、芳樹に言った。
たぶん今の和泉には、何の意識もないのだろう。
「…ん〜…まぁ。いいか。」
芳樹はしばし考え、今の状態で和泉を置いていけないと判断した。
「でも…裾引っ張るの止めて?伸びる。」
「うん…じゃ手かして」
「は!?お前何言ってるか…」
「え?」
和泉はきょとんとした顔で、手を出す。
「ったく」
芳樹は和泉の手を取った。
「ね…何処行くの?」
「部室。」
「ふ〜ん」
二人は玄関を出て、部室へ向かう。
「わッ。まだ雨降ってるじゃんかッ。」
空からはありえないぐらいの雨。和泉は傘を開く。
「お。気が利くじゃん」
「まぁねッ」
和泉は傘を持っていない方の手を出す。
「また…」
「お願いッ」
芳樹は和泉から傘を取り、手を握る。
「走るぞッ」
「うんッ」
―ぴかッ
「まさ…か…」
空が明るく光った。
和泉は芳樹を握る手を強くする。
―ゴロゴロッ
すごい雷鳴がし、地面がぐらぐらと揺れていた。
「「なッ?!」」
二人はバランスを崩して、地面に倒れこんだ。
「いッて〜…大丈夫か?和泉」
「んん。大丈…夫」
―どんッ
会話の途中で、予告もなく二人に雷が落ちた。二人の体に勢いよく電流が流れ、二人は気を失ってしまった。